「インド太平洋への重点転換は欧州に厳しい選択を迫る」

 シンクタンク「英国王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のジャック・ワトリング上級研究員(陸戦)は同サイトへの寄稿(2月14日付)で「米国がウクライナに安全保障の保証を提供しないこと、インド太平洋地域への重点転換は欧州に厳しい選択を迫っている」と指摘している。

「へグセス氏の交渉者としての明らかな未熟さから、ロシアに対してさまざまな譲歩を提示したが、見返りを得ることはできなかった」

 ヘグセス氏の発言は安全保障を保証してくれるという同盟国の米国に対する幻想を雲散霧消させた。米国による欧州安全保障への関与縮小とウクライナ和平の保証人となることへの拒絶は欧州に多大な犠牲を強いることになる。

 ワトリング氏は次の3つのシナリオを想定している。

(1)米国が支援停止の脅しを用いてウクライナに主権譲歩を強要
(2)交渉が長期化し、ロシアによる現状変更が絶望的なまで進行
(3)米国がロシアに停戦を強制するが、ウクライナは分裂選挙、経済マヒ、ロシアによる戦争再開の脅威に直面

「トランプ氏が受け入れがたい条件でウクライナに和平をのませるのを防ぐには米国の軍事支援がなければ生じるギャップを欧州が埋めなければならない。停戦を維持できるかどうかはロシアが攻撃作戦を再開するのを阻止する欧州の能力にかかっている」とワトリング氏はいう。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。