豪雪被害をもたらすJPCZとは?

 最近、テレビの天気予報で「JPCZ」という言葉を耳にすることが多くなりました。JPCZとは“Japan-sea Polar airmass Convergence Zone”の頭文字をとったもので、日本語では「日本海寒帯気団収束帯」といいます。「収束」は1か所に集まることを意味しますので、つまりJPCZは日本海において寒気団の風が集まって、前線のようにぶつかり合う場所のことです。

 大陸寒気団の勢力が発達すると、冷たい風が北から南へ強く吹き出します。その風が中国と北朝鮮の国境地帯に位置する白頭山(標高2744m、中国名は長白山)などの高い山にブロックされると、いったん山の左右に分岐した後、風下の日本海上で再び合流しぶつかり合います。

 これがJPCZの正体で、上昇気流により雪雲が発生し筋状に伸びて長さが1000kmに達することもあります。JPCZはひと冬に数度、多い年には10回ほども発生し、一度形成されると1日〜数日間続くのがふつうです。

【図表3】JPCZのしくみ
寒気が収束する原因は、白頭山のような高い山によるブロッキングである。山を迂回して左右に分かれた2方向の風が再びぶつかりJPCZを形成する 提供元/JPC

 JPCZが大雪をもたらす理由をもう少し詳しく説明すると、高い山を二手に分かれて迂回した寒気が日本海上で合流した際、しばしば渦が生じて上昇気流が発生するのです。しかも陸地より温度が高い海面上では、熱と水蒸気が与えられ積乱雲(雪雲)が発達します。そして、風が日本列島の沿岸に近づくと、そこには対馬海流という暖流が流れており、空気の上昇がさらに加速されて雪雲の成長を助けるのです。

 おまけに今冬は海面水温が平年より2~4℃も高い海域が日本海に広がっており、上昇気流がますます活発化しやすくなっています。このような理由で極度に発達した雪雲が、日本海側の平野部にも大雪を降らせているのです。

 JPCZが生じると、南東北から福井県あたりが豪雪に見舞われることが多いのですが、風の向きや強さ、海水面の温度などによって降雪地域は東西に移動します。また、日本海北部でもJPCZと同様のメカニズムによって雪雲が発生することがあり、こちらは北海道に大雪を降らせます。

【図表4】日本海の海面水温の平年差
2025年2月5日の日本海における海面水温の平年差。赤色部分の数字は平年値より何℃高いかを示している。平年値とは1991〜2021年の30年間の平均水温 
出典:気象庁「日別海面水温」(2025年2月5日・日本海海域・平年差を選択)

 最近まで一般には耳慣れなかったJPCZですが、日本海における寒気の収束帯が初めて報告されたのはおよそ55年以上も前、1969年のことです。以来、地道な研究が続けられ、世界一の豪雪地帯として有名な本州日本海沿岸地域の降雪メカニズム解明に大きく寄与してきました。2016〜2018年の研究ですが、1時間に2cm以上の降雪をもたらす気象要因の74%がJPCZによるとの報告もあります。しかしながら、JPCZにはまだまだ不明な点も多く、いまも精力的に研究が続けられています。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)