地方経済活性化に貢献する世界の食通
2021年以降、北海道から沖縄まで40店が選ばれ、この連載の初回で書いた「レヴォ」も選ばれている。
つぶさに観察すると、観光地は少ない。
こうしたところにレストランを作ろうと思ったシェフは、観光に来る客を対象にしているわけではないからである。
彼らが地方に行くのは、地方でしか使えない食材があるから。
東京は世界中から一流の食材が届く。どれも質が良いものばかりだが、使いやすい、どこかカドが取れたものが多いと私は思う。
しかし、地方にはキャビアや白トリュフはないけれど、足が速くて東京まで出荷できなかったり、数が揃わなくて東京で売れないけれど美味なものがいくらでもある。
そして、地方のシェフたちは凡庸な東京の食材よりも、地方の一級の食材を使いたくてその地方に行くのだ。
これは、東京のシェフと地方のシェフのどちらが良いという問題ではなく、料理人たちの感性に過ぎない。
ただ、これまで地方を志向するシェフがいたとしても、それで生活を成り立たせるのは困難だった。
ところが、いまはわざわざ地方まで食べに来てくれる世界中のフーディーが増えているから、経済的にも成り立つようになったのである。
彼らは東京のカドが取れた料理には飽き足らず、とがった料理を求めている。だから日本各地に、デスティネーションレストランが増えているのである。
彼らが地方に行くのは、そこに彼らの目指す食材があるからだが、それらの食材は周囲にいる農家、漁師、鮮魚店、精肉店などとのネットワークでシェフに届けられる。
つまりデスティネーションレストランがあるということは、その地方全体の食が豊かであるということだ。
こうした地方を最近は「ローカルガストロノミー」と呼ぶ。