「マスクとトランプはどこかで衝突する」

──イーロン・マスク氏もファクトチェックを嫌っていますよね?

ウィビー:彼は、ファクトチェックに関してはもっと複雑な考え方を持っていて、X(旧ツイッター)におけるコンテンツの確認をほぼすべて取り除いて、かわりに「Community Notes」というシステムを導入しました。「Birdwatch」という呼び方もされます。

 これはXの中で、ユーザーがあるテーマについてファクトチェックを共同で行うというシステムです。一見すると、とても民主的な良いシステムのようですが、十分な成果が得られるとは思いません。

 まず、人々が集まって調査、審議するスピードでは、誤情報の影響が広がるスピードに追いつきません。システムのデザインにも無理があると思います。異なる考え方の人々が集まってその情報の真偽を明らかにするのは、どう考えても難しい。

「Community Notes」は一つの試みではありますが、それだけでは足りません。やはりその問題と常に向き合うテクノロジーと専門部隊が必要なのです。

 既に最近のXはかなり混沌とした情報空間になっています。真偽不明の情報や扇動が蔓延していて、使用を控える人が急増している。私はまだ使っていますが、以前ほどの信頼感や利便性は感じていません。

──イーロン・マスク氏はトランプ政権にも入っています。このことが今後どう影響していくと思いますか?

ウィビー:マスクはあまりにも特異な形で政権入りしています。ある省の長官というより「どことなくアドバイザー」のようなポジションですし、彼自身に影響力がある。トランプはそれをかなり大胆に活用しています。

 ただ、あの2人はどこかで衝突すると予想しています。それぞれ巨大なエゴの塊のような人たちです。ずっと仲良く助け合って政権運営ができるとは思えない。

 マスクがXの管理を超えて、SNS全般にどこまで影響を与えるようになるのかは想像できません。ファクトチェックのようなプラットフォームの規制はなるべく減らしていく流れを作りたいと考えてはいるでしょう。でも、そうしたことを任される立場ではない。

 私はマスクの性格上、今回の大統領令「言論の自由の回復と連邦政府による検閲の終結の大統領令」に反した行動を彼自身が取ってしまう可能性さえあると思います。この大統領令は政府がプラットフォームにあれこれ口出ししてはならないのですから。

──Qアノンやアレックス・ジョーンズのような、不正確な情報や陰謀論を振りまく人たちがいますが、こうした人たちの活動はまた活気づいていますか?

ウィビー:この半年ほど活気づいていて、怪しげな存在から普通の存在に立場がやや昇格し始めている印象さえあります。ただ同時に、こうした一派に対する人々の関心も薄れてきています。

 おそらくその一つの理由は、陰謀論者は日陰の存在だから影響力があるのです。権威に対して遠くから野次を飛ばしているから意味がある。権威に取り込まれたら、野次を飛ばす相手がいなくなるどころか、野次を飛ばされる対象になってしまうのです。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。