そこから同局でのCMの放送を差し止めるスポンサー企業が相次ぎ、75社にまで至った。テレビ、ラジオの中居のレギュラー番組もすべてなくなった。

 そうして1月23日、中居は芸能界の引退を発表。同日、フジテレビは中居と女性とのトラブルについて、日本弁護士連合会のガイドラインに沿った第三者委員会を設置すると発表した。ようやく、この問題の調査が本格化することになる。

「このタレントをキャスティングしたから新しい番組の企画を立ててくれ」

 2023年6月に中居がトラブルを起こした時、女性は被害を上司に相談していた。港社長にもその報告が上がっていたことは、記者会見で認めている。にもかかわらず、1年半もの間、中居を起用してきたことに疑問や批判の声があがれば、社内でもごく限られた幹部にしか情報共有ができていなかったことも露見している。港社長をはじめ経営責任も問われることになりそうだが、やはり問題の本質にはタレントとの関わり方にありそうだ。

 番組の企画を立ち上げるのに、まずタレントありきだった――。かつてベテランの社員からそう聞かされたことがある。

 番組制作の現場の人間が「こういう番組が作りたい」と意気込んで企画を持ち込んでも、なかなか企画が通らない。それよりも上層部から、このタレントをキャスティングしたから新しい番組の企画を立ててくれ、と言われることのほうが多かったようだ。それも大手プロダクション所属ばかり。言ってみれば、番組企画という新しいソフトよりタレントという既存のハードを重視する。「お笑いブーム」や「トレンディドラマ」で盛況を極めたフジテレビが、次第に勢いを失っていったのも、成功体験そのままに、タレント頼みで番組制作者に実力がなくなっていったからだ、と嘆いていた。いくらタレントが揃ったところで、番組の中身が薄ければ意味がない。

 こうしたタレント頼みの傾向は、番組を比べてみればよくわかる。日本テレビの『ザ!世界仰天ニュース』とフジテレビの『だれかtoなかい』は、どちらも中居がMCを務めていた番組だ。女性とのトラブルがあった2023年6月は、まだ『まつもtoなかい』のタイトルで、ダウンタウンの松本人志と中居がMCだった。いわば話術に長けた2人。むしろ、この番組タイトルこそタレント依存の見本のようなものだ。そこに毎回ゲストを呼んでトークショーを展開していく。

 2人に任せておけばいい。2人がうまくやってくれる。タレントの話術こそすべてだ。だったらスタッフはタレントをその気にさせて、番組が盛り上がればいい。

 その後、松本人志が性加害報道で降板しても、『だれかtoなかい』に変更して中居を起用し続けた。ひとりになった中居に同情的な見方もあったが、すでに松本と同じようなトラブルを抱えていながら放送を続けたことは論外だ。そこにもスキャンダルを揉み消すタレント偏重の本質がみてとれないか。