建物は図書館、ホール、子育て支援などさまざまな用途がシームレスに配置され、7層のフロアが吹き抜けでつながる。前面の芝生広場やテラスの樹木で外部とも連続し、全体が「立体的な公園」のようになっている。

 設計は、被災地のコミュニティのための「みんなの家」プロジェクトをリードする建築家・伊東豊雄氏。「おにクル」を「みんなの建築」と見る推薦委員や、同氏の代表作「せんだいメディアテーク」(2001年)の発展形と見る推薦委員もいたようだ。

芝生広場から見た「おにクル」。いつも老若男女でにぎわっており、開館から半年ほどで来館者数100万人を突破した。設計/伊東豊雄・竹中工務店JV(写真:森清)芝生広場から見た「おにクル」。いつも老若男女でにぎわっており、開館から半年ほどで来館者数100万人を突破した。設計/伊東豊雄・竹中工務店JV(写真:森清)

 新潟県小千谷市の「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」もまた、図書館を含む複合施設だ。「ホントカ。」(「本とか」と「ホントか!?」を掛けている)という名称が公募で選ばれたのも「おにクル」と共通する。ただし、茨木市は人口約28万人、小千谷市は約3.3万人で、周辺環境も全く異なる。

 建物を縦に貫く吹き抜けが印象的な「おにクル」に対し、「ホントカ。」は平屋に近い2階建て。眼前の越後三山に呼応する、山並みのような屋根が特徴だ。その複雑な形が、屋内では天井の形となって現れる。空間は見え隠れしながらつながり、床にも高低差があって、多様な居場所が生まれる。豪雪地帯だけあって、屋内にも子どもたちのための起伏に富んだ「広場」が設けられている。

「ホントカ。」の「フロートエリア」と呼ばれる図書室・閲覧室。床のレールに沿って書架や展示台が動き、資料と資料の関係性を変えることができる。設計/平田晃久建築設計事務所(写真:森清)「ホントカ。」の「フロートエリア」と呼ばれる図書室・閲覧室。床のレールに沿って書架や展示台が動き、資料と資料の関係性を変えることができる。設計/平田晃久建築設計事務所(写真:森清)

 伊豆市の「テラッセ オレンジ トイ」は「防災」と「観光」の機能を併せ持つ、全国初の「津波避難複合施設」だ。津波の届かない高さに1200人の避難スペースを設け、日ごろはレストランや展望台として使う。

 建物を取り巻く2つの階段は、美しい景色を眺めながら巡る散策路であり、災害時には大勢が一度に上れるゆとりを持たせている。建設にあたっては、松原の木をなるべく伐らず、景観に溶け込むように工夫したそうだ。

「伊豆市津波避難複合施設 テラッセオレンジ トイ」。津波を避けるため高く持ち上げられた床の下に、建物の前後をつなぐ気持ちのいいピロティがつくられた。設計/東京大学今井研究室、日本工営都市空間(写真:磯達雄)「伊豆市津波避難複合施設 テラッセ オレンジ トイ」。津波を避けるため高く持ち上げられた床の下に、建物の前後をつなぐ気持ちのいいピロティがつくられた。設計/東京大学今井研究室、日本工営都市空間(写真:磯達雄)