「ネオ55年体制」と言い切れない3つの理由
「外交安全保障・憲法」の争点軸を重視し、それによってこの間の日本政治を「保革対立の再来」と見る立場に、境家史郎による「ネオ55年体制」論がある。
◎境家史郎『戦後日本政治史-占領期から「ネオ55年体制」まで』(中公新書)
境家によれば、安倍政権以降、自民党が憲法や防衛問題で「戦前回帰」したのに対して、立憲民主は左派政党として「社会党化」し、政党間の政策対立も力関係も55年体制型の政治に回帰したという。
右傾化した自民党と、共産党との共闘に舵を切った立憲民主とが対決した2021年衆院選は「日本政治のネオ55年体制」完成の選挙とされた。
たしかに、第二次安倍政権が安全保障や歴史認識といった争点で与野党分岐をもたらした点に異存はないが、「ネオ55年体制」にはいくつかの難点を拭いきれない。
第一に、「ネオ55年体制」は「改革」をめぐる争点を捨象している。政党対立の構図に着目した時、55年体制と現在との最大の違いは、非自民保守系野党、すなわち維新の存在であり、これが「憲法を軸にしたイデロオギー的分極化」という構図だけで与野党関係を描き切ることを困難にしている。
自民党と立憲民主はじめ既成野党との双方に通底する「既得権」を批判し、その大胆な透明化と流動化を図る選択肢の存在は極めてポスト55年体制的な選択肢であり、それを捨象することはできない。
第二に、「ネオ55年体制」は、一時的にその様相を見せたとしても、今後も「体制」として持続するとは考えにくい。
2025年は日本政治の有権者の世代交代をもたらす端境期となり、有権者のボリュームゾーンは「団塊の世代」から50代以下の現役、若年世代へと移行していく。それに伴い、戦争体験の見聞に基づいた反戦意識や、それに支えられた「外交安全保障・憲法」の争点軸も相対的に希薄になっていくであろう。
第三に、「ネオ55年体制」は市民社会の実体的な利害対立を反映できないという点で、望ましくもない。
人口減少や少子高齢化に伴う構造変化を迎えるこれからの日本社会にあって、「外交安全保障・憲法」の軸で旧来型の保革対立が再燃することは、ややもすればイデオロギー対立の空中戦によって政党対立が形作られることになりかねない。政党選択肢が現役世代の利害や価値観からずれた空間に作られたとすれば、政党競争は機能不全を起こし、有権者による政治不信を増幅させることになろう。