救いは経済運営のツートップ
急いで利下げするのではなく、もう少し状況を見ざるを得ない。韓国銀行の判断に大企業からは特に異論は聞こえない。
為替レートの急変を嫌うからだ。韓国の財閥系企業の社長はこう話す。
「韓銀総裁のことは信頼している。いまは、経済に関して明るい話は何もない。国内政治の混乱は為替だけではなく、韓国企業に対するイメージ低下という観点からも心配だ」
「そんな不安の中で、あの2人がトップにいることが救いだ」
不幸中の幸いというべきか。韓国の金融界、産業界では、韓国の経済運営の責任者の2人に対する信頼度は高い。
その1人は韓国銀行の李昌鏞総裁、もう1人が大統領権限代行を兼ねることになった崔相穆(チェ・サンモク=1963年生)副首相兼企画財政部長官だ。
特に評価が高いのが李昌鏞総裁だ。
ソウル大卒後、米ハーバード大で経済学博士号を取得したエコノミストだ。ソウル大教授などを歴任した後、アジア開発銀行(ADB)主席エコノミスト、IMF(国際通貨基金)アジア太平洋担当局長などを長年務めた。
2022年に韓国銀行総裁に指名したのは退任直前の文在寅(ムン・ジェイン=1953年生)大統領(当時)だった。
だが、後任の尹錫悦大統領側からも異論が全くない「大本命」だった。
米国だけでなく、世界中のエコノミストや政策責任者に幅広い人脈があるだけではなく、対外的な説明は率直で分かりやすい。
大学入試改革まで提言
尹錫悦大統領に続いて韓悳洙(ハン・ドクス=1949年生)首相(大統領権限代行)に対する弾劾訴追案が野党の多数の賛成で可決になり、さらに「代行の代行」だった崔相穆副首相の弾劾の動きが野党内で出た時、これを一喝したのが李昌鏞総裁だった。
1月16日の会見でも「政治の領域を侵犯したという指摘もあるが…」という質問が出た。
これに対して李昌鏞総裁は「崔相穆副首相への(弾劾に反対した)発言についての質問のようだが、私のメッセージは経済に関する内容だった。代行の代行まで弾劾されたら国家信認度はどうなるのか。外国投資家や信用調査会社の見方が悪くなることが分かっているなかで、経済を安定化するために重要なメッセージだった」と言い切った。
李昌鏞総裁は就任以来、「中央銀行トップ」の枠を超えて積極的に発言してきた。
果物価格が急騰した際には、輸入規制の緩和を求め、不動産対策に関連して「大学入試制度改革」を提案した。
いずれも「韓国経済にとって重要なテーマだから発言する」と意に介す様子は全くなかった。
一方の崔相穆大統領権限代行は、ソウル大法学部首席卒業後、経済官僚の道を歩んだ。
米コーネル大で経済学博士号も取得している。金融政策からマクロ経済財政策まで幅広い分野を担当した経歴がある。
進歩、保守政権を問わず昇進を重ねた伝統官僚のエースだ。
この2人は、非常戒厳事態以来、とにかく「経済の安定」を最優先課題に、政治の混乱に振り回されることなく収拾にあたってきた。
「対外的な発信力と、危機管理が最優先である今の事態には最適な2人」(韓国紙デスク)という評価は多い。
一部韓国メディアは、崔相穆大統領権限代行を次期大統領候補に推す声が経済官僚OBの間などであるとも報じている。
だからといって、この2人にスーパーマンのような活躍を期待するのは無理だ。
景気の落ち込みはこの2人の力で止められるものではない。