例えば、

〈方針をHDが決めることは良いが、コストでしかないHDが事業をやっている我々に「こうです」とおっかぶせてくる、そのことに対して腹落ち感を醸成するひと手間をかけてほしい。今日言いたかったのは、HDで権限規定(ママ)を変えてもらっても構わないが、当社(*議事録では実名)は変えないというのがトップマネジメントの意向だということ〉

〈例えば調達云々とか新規事業を全部見せろとか。各社の自主性を損なって、それで全体の収益が上がるのか。対応するのに相当人が割かれる。ENEOSは人海戦術で対応できるかもしれないが、他の会社は難しい。権限規定(ママ)にしても、開発は担当者が兼務で一人しかいない。元からいる社員が今までいい会社だと思っていたのに、こんなひどいことになっているのかと疲弊してモチベーションが下がっている。このままでは人材流出につながり、長期的に経営を損ねると思う〉

「全くアホかと」

〈このままでは我々はHDの方針を押し付けられて、それに対してどうやって影響をミティゲート(*和らげる)できるかばっかり考える羽目になる。そのような対応に限られた社内のリソースが割かれており、他のことができなくなってしまう。代替案をきちんと提案しないと「宮田社長(*HD社長)がなんか言ってます。どうやって薄めましょうか」みたいな話になる。それで我々が言うこと聞くとか聞かないみたいな話になってしまう。最初の話に戻るとHDの管理を強めれば業績が良くなるのか〉

〈権限と責任をどう考えているのか。じゃあこの契約をして失敗したときはHDが責任を取ってくれるのか。HDが決めたいだけではないのか〉

〈事業会社にしたら申請を上げて返ってくるのを待っている間の時間が全く無駄。事業戦略が認められていないなら分かるが、認められている事業戦略に基づいた契約でここまで時間をかけるのは意味が分からない。全くアホかと思っている〉

〈事業部門には事業に知悉している人間が集まっており、特にオペレーションについては事業会社側のほうがより詳しいわけで、その良し悪しをHDに教育することから始めなければならず、それがものすごいコストになると思う〉

 といった具合だ。

 経営トップ2名が相次いでセクハラで会社を去り、本業でもライバルに収益性で差をつけられている危機的状況の中、立て直しに乗り出したHDの宮田社長が打ち出した方針に、事業会社は不満を隠そうともしていないのだ。対立の原因が、現場から「アホか」とされても仕方がない、現場の実情を知らない宮田社長による改革にあるのか、あるいは従来のやり方や企業文化に固執する現場のワガママにあるのかはわからないが、HDと事業会社間でこれほど対立が先鋭化していては、現在の危機を乗り切るもの容易ではなかろう。

 HDと事業会社の深刻な対立についてエネオスHDに問い合わせたが、

「取材をお受けすることはできません」

 というのみだった。

 不祥事続きで社内が古い企業文化に染まりきっていることを図らずも露呈したエネオスグループの改革は、非主流派出身の宮田社長の手で成し遂げることはできるのだろうか。