鎌倉幕府はなぜ滅びたのか

 こうした現象は日本の歴史においてもみられた。筆者は、トランプ大統領は後醍醐天皇であると位置づけたい。

 歴史学者の細川重男氏は、その著書『鎌倉幕府の滅亡』(吉川弘文館、2011年)において、モンゴルや朝廷をも撃破した無敵の鎌倉幕府が滅亡した理由を次のように説明している。

 鎌倉幕府支配層たる北条氏やその家臣で構成される幕府官僚の「貴族化」が進む一方で、御家人たちがこれらの「貴族」に軍事的・経済的に搾取され、困窮していった。そうした中央のエスタブリッシュメントの増長を、「異形」の後醍醐天皇を中核とする、悪党等の地方の草の根勢力および幕府の意思決定から排除された御家人達が倒した、というわけだ。

 これはまさしくトランプ政権誕生の構図と同一ではなかろうか。

 トランプ政権が「建武の新政」のようにあっけなく崩壊するかどうか、それは分からない。確かに不安要素はいくつも抱えており、その可能性もあるだろう。

 最近の研究では、建武政権崩壊の理由を「後醍醐天皇は『異形』として振舞うことで、カリスマ性を獲得しようとしたものの、結局、それは政権を維持できるほどのものでもなかったし、また恩賞給付の遅れが武士たちを離反させた」(『南朝研究の最前線』呉座勇一編、洋泉社、2016年)としているが、これはある意味、トランプ政権に対して示唆的ではなかろうか。

 ただ、米国民の間に、ブッシュ、オバマ政権下で肥大化した、税収入を基盤とする既得権益化したワシントンへの怒り(=「不公正」への怒り)が渦巻いていることは確かである。それを叩き潰そうとしているトランプ大統領は、まさに現代の後醍醐天皇と呼べるのではないだろうか。

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