彼らは収入だけでなく、知的レベルでも他の地域の人間と断絶を感じているようだ。国防総省で働くある核物理学者の一家は、ワシントンを出ると、外交政策や核テロ対策について話す人がほとんどおらず、「毎日、自分が見たことだけを話している」人たちばかりだと感じるという。

 この調査は中間層の減少も示唆している。1970年代は65%の家族が中所得地域に住んでいたが、40年後には42%に減少している。他方、豊かな地域に住む家族の割合は7%から15%と2倍に膨らみ、貧困地域に住む家族も8%から18%に増えた。

なぜワシントンが貴族の街になったのか

 かつてワシントンには、測量士、インテリアデザイナー、教師、エンジニア、整備士、理髪師、保険代理店、バスの運転手など広がりをもった職種の人たちが住んでいた。だが、2000年頃よりワシントン一極集中の現象が急速に進んだ。その結果、ワシントンD.C.で高学歴高収入人口が10万人以上も増え、特定の職業の住人ばかりになってしまった。

 なぜ、このようなことになってしまったのだろうか。

 この点に関し、安井明彦氏(みずほ総合研究所政策調査部長)は、ブッシュ政権の対テロ戦争、続くオバマ政権の金融政策と医療制度改革による政府組織と予算の拡充が、ワシントンを一気に全米一の「上流階級」の街にしたと指摘している(「米国で問われる政府のマネジメント―『決められない政治』の先にあるもの―」、みずほ総合研究所『今月の視点』2013年12月1日)。