最下層のインターンが破った上司と部下の“正しい関係”
物語は、ロミーとその夫のジェイコブ(アントニオ・バンデラス)がセックスを終えるシーンから始まる。幸せを噛みしめるようにベッドに横たわるジェイコブと対照的に、ロミーはすぐに寝室を出て書斎にひとり閉じこもる。そこで、ロミーが持つ小さな秘密が明かされることで、ロミーの人生のある決定的な不足が鮮やかに描かれる。
翌朝、ロミーが会社に向かうとオフィスビルの前で大型犬が暴れていて、飼い主が声を掛けても言うことを聞かない。そこにサイズが合わないスーツの上にコートをズルズルに着た若い男が現れて、いとも簡単に手なずけてしまう。この表面的には内向的そうなものの、内に強い攻撃性を持つ不思議な魅力の男がロミーの人生を狂わしていく新人インターンのサミュエルだ。
数日後、ロミーがスマホで会議をしながら社内のカフェテリアにいくと、サミュエルが同僚インターンと談笑している。
ロミーは通話をしたまま小声でサミュエルにコーヒーを作るように指示する。サミュエルがコーヒーを渡すと同時に電話を終えたロミーが「あの大型犬をどうやって手なずけたの?」と聞くと、サミュエルは当然のことのように「クッキーをあげた」と答える。続けて、ロミーが「いつもクッキーを持っているの?」と聞くと、サミュエルは少し見下したように微笑みながら「ほしいの?」と返答する。
社内ピラミッドの最下位にいるインターンにからかわれたCEOのロミーは、少しうろたえながら「いらない」と答えるが、続けてサミュエルはロミーに「昼食後のコーヒーは身体に良くないよ」とささやく。自宅からもオフィスからもマンハッタンを窓下に見て過ごし、職場でも部下しかいないロミー、つまりどこまでも「見る人」であった人間が、このような態度で人から「見られる」ことへの耐性が少ないように見える。
サミュエルが半ば強引に両者の正しい関係を破ると、ロミーはサミュエルのパワー・ダイナミクスのゲームから抜け出せなくなり、ボトックスを打ちに行く。ボトックスはもちろん、「見られる人」になったからに他ならない。
