「トランプ砲」は予測不能

 トランプ氏は3日、自身のソーシャルメディアで「英国政府は北海を開放し、風力発電施設を撤去すべきだ」と訴えた。   

 トランプ氏の投稿は「米石油・ガス企業アパッチが2029年末までに北海から撤退する」との報道を受けたものだ。アパッチは北海での今年の生産量は前年に比べて20%減少すると予想している。

 英国・ノルウェー政府の規制や課税強化により、石油企業の撤退が相次いでいることから、北海全体の原油生産量は21世紀初頭の日量約440万バレルから約130万バレルにまで激減している。

 石油開発の規制緩和を声高に訴えるトランプ氏に対し、「待った」をかけたのがバイデン大統領だ。バイデン氏は6日、米沿岸部の約2億5300万ヘクタールで新たな石油・ガス開発を恒久的に禁止することを決定した。

 当該地域に有力な油田などはみつかっておらず、象徴的な意味合いが強いとされているが、トランプ氏は7日「容認できない。大統領就任の初日に撤回する」と反発した。

 トランプ氏の再登板でイランが打撃を被るのは確実だ。

 バイデン政権下でイランの原油生産量は増加したが、ゴールドマン・サックスは「(トランプ次期政権の制裁強化で)今年第2四半期までに30万バレル減少し、日量325万バレルになる」と分析している。

 米ニュースサイトのアクシオスは2日「バイデン政権がイランの核施設攻撃を検討した」と報じたが、トランプ次期政権ではその可能性がさらに高まることだろう。

「トランプ関税」が世界経済を減速させるリスクもある。そうなれば、世界の原油需要に急ブレーキがかかるのは確実だ。

 今年の原油市場は予測不可能のトランプ氏の言動に反応して混乱する可能性が高いのではないだろうか。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。