かつては極彩色だった白い神殿
修復責任者の案内で、パルテノン神殿の内部を歩くことができた。黄金と象牙を張りつめた女神アテナの12mの像があった祭壇の付近に、場違いならせん階段が現れる。オスマン帝国がミナレットに改造した名残りで、その階段を昇ると、梁の壁面に残された青い塗料の跡を目にする。かつて神殿は、あざやかに彩色されていたのだ。
近年の調査・研究により、円柱は純白なものの、梁から上部は極彩色にいろどられていたと考えられる。殊に彫刻群は、カラフルの極みだった。
今、人類の至宝といわれ、理想の肉体美をとらえた彫刻の数々は海を渡り、大英博物館に収蔵(エルギン・マーブルと呼ばれ、ギリシャは返還を要求)されている。それらが白く輝くのは、1930年代に大英博物館によって表面の色がはぎ取られ、真っ白く磨かれたからだった。ヨーロッパの原点・古代ギリシャは、白=純潔のイメージこそ相応しいとされた。歴史的遺物は、人々が見たい姿・形に当てはめられてきたのだ。
アテネのアクロポリスを訪ねる喜びとは、空想の翼を羽ばたかせ、2500年におよぶ物語を読み解くことだろう。
(編集協力:春燈社 小西眞由美)