筆者はアネクドートの基本形を以下の通り設定した。アネクドートは多かれ少なかれ、こうした型に合致するようにも思える。一般的な笑いやジョークもこの型だろうが、筆者は笑いの専門家ではないのでここでは詳述を避ける。

(1)まず、理解を標準化する(前提を設定する)
(2)次に、説明を加える(話を結論に誘導する)
(3)前提を覆す/伏線を回収する

 先程の兵士の例を再度引用する。

②2人の若い兵士が話しています。
―中尉をからかいましょう。
―でも、もう学部長をからかっただろう。

 まず前提は、若い兵士が登場するということだ。もし、これが普通の学生やサラリーマンならば後半のオチは生まれない。1行目によって、アネクドートの作者と読者の双方が、これは軍隊の話だと理解する(理解の標準化)。

 次に、2行目の中尉をからかうというのは、最後のオチを導く準備である。中尉は階級から判断すると、彼らの上司であろうことも読み取れる。

 そして、3行目に、急に学部長が登場する。しかも、既にからかった後だという。多分、皆さんはこの行で挫折しただろう。

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 実は、3行目で気持ちよく笑うためには、もう2つ隠れた前提を拾う必要がある。それは、ロシアでは徴兵から逃れるために大学に行く人がおり、大学を退学になれば徴兵対象となってしまうということだ。つまり、このジョークでは、2人は大学で学部長をからかって学校を退学になり軍隊にぶち込まれたのに、懲りずに自分たちの上司をからかおうとしていることが滑稽なのだ。

 3行目の情報で、主人公が「若い兵士」であったことの伏線も回収される。ロシア人には、2つの前提が最後の伏線回収によってほぼ直感的に結び付く。だから、説明もなしにクスクス笑えるのだ。一方、日本人を含む外国人は、そういった前提を知らないので明らかな論理的飛躍があると思ってしまう。

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