公然と影響力を行使した「フィクサー」
僕はナベツネさんのことは素晴らしい人物だと思っています。読売新聞は権力の応援団とみられているが、その中で彼はガンガンものを言った。しかも社長にまでなった。それがすごい。
読売新聞の社長だから権力の側に見えたかもしれないが、そこに良い悪いはない。彼はやりたいことをやっただけ。あんなに言いたいことをちゃんと言う人はあまりいないでしょう。
僕も言いたいことは言ってきたけど、それはあくまで一個人としての活動です。でも彼は社長になって組織を背負っても自分の考えを変えてない。すごいことです。
ナベツネさんは盟友だった中曽根康弘さんに限らず、歴代の首相と近しかった。そのため、フィクサーのように言われることもあった。でも、彼は全部、公然とやっている。彼に裏なんてなくて、全部表だった。
時の総理大臣をはじめ、多くの政治家が彼を頼ったのは、ナベツネさんの方が彼らよりも遥かに事実を知っているからでした。
そんなナベツネさんでも野球には詳しくなかった。広岡達郎さん(元巨人軍)によると、「ぼくにはよく相談していたよ」と話していました。「長嶋監督がやめたあとは誰が監督になるのがいいか」なんて、記者たちに聞いたという話もありますよね。意外と人の話を聞く人なんです。
そんな中で、野球界についても「こうあるべきだ」という考えは持っていた。盛り上げたいという思いも強かった。だから、球団の不祥事でオーナーを辞任した後、自分に報告が上がってこないことに怒っていた。
「僕はグループ全体のトップなのに、100%子会社の一つである巨人軍の役員会に全く出られないことに気づいた。オーナーからも俺に報告がない。全体の経営、つまり経理と人事に僕が責任を持たないというのはおかしいじゃないか!」と言うんです。自分がオーナーを辞めてから巨人が弱くなっていったととても気にかけてました。
僕は、ナベツネさんみたいな人と朝日新聞のようなメディアが両方活躍できる日本がいいと思っている。ナベツネさんは朝日が大嫌いだけど、その存在は認めていた。そもそも入社試験も受けていますしね。
「朝日があったほうがいい」と思っていた。そこが彼の面白いところです。根っこが立憲主義、戦後民主主義なんですよ。
ワンマンだ、タカ派だと言われるけれど、そこが面白い。ロシアや中国と違うところです。