カスハラを問題視する“社会の眼”が養われつつある
もし相手を顧客と見なさなくなった場合、それでも執拗に嫌がらせをしてくるならば、カスハラではなく別のハラスメントへと変わります。他の顧客の手前、むげにできないのをいいことに強い立場から威圧的な態度を取るのであればパワハラ、性的な言動が伴う嫌がらせであればセクハラです。
カスハラとはあくまで、嫌がらせしてくる相手が顧客という立場であることからそう呼ばれるに過ぎません。強い立場をかさに着ている点に着目すればパワハラであり、性的言動に着目すればセクハラになります。さらに言動がエスカレートするようであれば、もはやハラスメントとは呼べません。威力業務妨害や脅迫罪、強制わいせつ罪といった犯罪行為と見なすべきです。
一方で、カスハラが問題視されるようになる中で、職場が毅然とした態度を示すケースも徐々に見られるようになってきました。
首都高速道路では独自の切電マニュアルを整備し、「回答内容に問題がないにもかかわらず30分以上同じ主張が続く場合」などの基準を設けて、すでに電話を切った数が30件に及ぶと報じられています。
さらに、ANAグループとJALグループは共同でカスタマーハラスメントに対する方針を策定したり、コンビニエンスストア大手のローソンでもカスハラに対する基本方針を制定するなど、カスハラに厳しく対応する旨を明確に宣言する会社が増えてきました。
冒頭でも紹介したように、各自治体がカスハラ防止条例を制定する動きも出てきており、カスハラを問題視する“社会の眼”が養われつつあることから、抑止力として徐々に機能してきていると感じます。先出のUAゼンセンの調査ではカスハラ被害の経験者が4割を超えていましたが、2020年調査においてはカスハラ被害の経験者が56.7%であり、高い水準が続いてはいるものの減少傾向にあります。