誰が経営のかじ取り役を担い、誰が支えるのか

 企業経営は人材と時の運の両方が影響する。運がよければ優秀な人材が不足していても成功するし、その成功によって人材が素晴らしいように見えてしまうこともあるが、日産とホンダのように神風が期しがたい組み合わせの場合、誰がかじ取り役をやり、それを誰が支えるかが極めて重要となる。

2024年8月1日、技術包括提携の覚書を締結し、握手する日産自動車の内田誠社長とホンダの三部敏宏社長2024年8月1日、技術包括提携の覚書を締結し、握手する日産自動車の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長(写真:日刊工業新聞/共同通信イメージズ)

 たとえ社外役員を置いてもお飾りになっては意味がないので、持ち株会社そのものを指名委員会方式とし、日産、ホンダの両社が人事に口出しできないようにするのが権力争いを防止するには最も手っ取り早い。

 いっそ会長、社長の両方を社外人材にお願いするのも手だろう。

 例えばステランティスの最高経営責任者を辞任したばかりのカルロス・タバレス氏。もともとゴーン日産元会長の下で経験を積んだ人材ということで完全に無縁ではないが、ここ10年でステランティスを大成長させたという目覚ましい実績と、フィアットを電動化ブランドにしようとして大失敗したという痛い経験の両方を持ち合わせている。その経験をもとに経営手腕を振るえば、迷走する両社を束ねてその力を大きく発揮させることも不可能ではないだろう。

 それ以外にも自動車メーカーのCEOをやれそうなフリーの人材はいくらでもいる。内部人材にこだわって権力闘争が続く、あるいは抗争を避けるために思い切ったことができないという事態になるくらいなら、今までの停滞した流れを断ち切るという意味でもCEO招聘というのはありだ。

 もちろん現時点では公式に発表されたことは何もないし、ホンダと日産の統合に際して日産とルノーの関係をどうするかということも決まっていない。経営統合がスクープされた12月18日の株価の午前の終値をみると、ホンダは前日比マイナス、日産と三菱自は爆騰。これは現時点での投資家の率直な肌感覚がそのまま出たものと言える。

 果たしてホンダ、日産、三菱自にとって“三方よし”と言える統合を果たせるかどうか。年末に向けてホットな話題が続きそうだ。

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。