時間に縛られるビジネス利用のみを想定していた「のぞみ」

 そもそも運行開始当初の「のぞみ」は全車両が指定席だったが、2003年から自由席が登場する。自由席は指定席券を必要としないことから割安に乗車できるというメリットに目が行きがちだが、そのほか時間に縛られないという利点もある。

 JR東海は「のぞみ」の運行開始前からビジネス利用が多いと想定していた。出張などのビジネス利用は、例えば「東京駅6時発の列車に乗る」、「9時までに東京の取引先に到着したい」といった時間通りの行動が求められる。

「のぞみ」は早朝・深夜の2往復4本だけでスタートし、当初のくだり早朝便は名古屋駅すら通過していた。それに対して、のぼりは早朝・深夜便ともに新横浜駅を通過するダイヤが組まれていた。

「のぞみ」の運行本数が少なかったのは、「のぞみ」用として使われる300系という車両が少ないことが理由のひとつだが、そのほかにも「のぞみ」は停車駅が少ないので東京―大阪といった主要都市を移動するビジネス利用しかないと受け止められていたからだ。つまり、明らかに行楽利用は除外されていた。

 行楽利用はビジネス利用と比べて時間を気にする必要はない。どの列車に乗っても目的地に着けば大差ないので、レジャーで新幹線を利用する人たちにとって「とりあえずホームにきた列車に乗ればいい」という感覚は強い。

 実際に「のぞみ」と「ひかり」の所要時間を比べると、東京駅―新大阪駅間は約20分しか違わない。それほど急ぐ必要がない行楽での利用なら、わざわざ指定席券を購入して「のぞみ」に乗ろうという気持ちにはなりにくい。そこまでガチガチなスケジュールを組みたくないという気持ちは理解できる。

 しかし、運行開始から約10年という歳月が経過して、「のぞみ」に自由席が導入された。これはビジネス目的以外の需要が広がってきたことも一因としてあるが、利用者の目には見えない発券システムの進化が大きく影響している。

年末年始を故郷や行楽地で過ごした人たちで混雑するJR新大阪駅の新幹線ホーム年末年始を故郷や行楽地で過ごした人たちで混雑するJR新大阪駅の新幹線ホーム(2023年1月3日/写真:共同通信社)