政治と軍事をきちんと描写した『太陽の牙ダグラム』

高橋:その意味でいうと、『太陽の牙ダグラム』の終盤で、革命軍の政治指導部の一部と地球側の政治指導部が密約を結んで妥協して戦争を終わらせ、独立派の兵士たちは失望するという描写があります。政治的決断によって軍事が止まったという点で、この作品は政治と軍事をきちんと描いていると思いますが、そこまで描く作品はそう多くありません。

 小説が元ですが、『銀河英雄伝説』のバーミリオン会戦で、ヤン・ウェンリー(主人公)に停戦命令を出す場面も、政治と軍事の関係を描いたものと言えます。

 比較的新しい作品ですが、『アルドノア・ゼロ』もそうです。この作品では、火星の貴族が暴走して地球と戦争を始めますが、火星のアセイラム姫がその貴族と結婚して、その貴族の武力も示しながら戦争をやめさせる。

 彼女は本当は好きな人が別にいるのに、好きな人を捨てて貴族と結婚するんです。そして、好きな彼の名前は二度と口にしないという描写まであり、非常によく描けていると思います。

──『蒼き流星SPTレイズナー』では、国家の描き方が特徴的だと書かれています。

高橋:アメリカとソ連という国が作中にそのまま出てきて、しかも、当時の激しい冷戦の中で、その冷戦の関係が月や火星に及んで、火星に核ミサイルまで持ち込まれているという状況設定です。

 米ソの対立関係を物語の下敷きにして、そこにグラドスという宇宙人が介入している。グラドスはソ連を装ってアメリカを攻撃する一方、アメリカを装ってソ連に攻撃をして、両国の緊張関係をエスカレートさせて衝突させ、共倒れを誘おうとします。

 視聴者に米ソの冷戦という知識がなければこの物語は理解できませんが、冷戦に関する知識があればすぐに入っていくことができる。なかなかユニークな作品だと思います。

 この本には書いていませんが、『ソードアート・オンライン』という作品の「アリシゼーション編」で、日本のプレーヤーに対して、反日感情を持つ中国と韓国のプレーヤーがゲームに入ってきて戦う場面があります。これも現実世界の対立構造をストーリーに組み込んで描いている作品の例ですね。