(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)
11月の兵庫県知事選挙で、斎藤元彦知事が再選され、かれは一転して「パワハラ知事」「おねだり知事」から「ヒーロー」になってしまった。
斎藤知事を批判していたテレビや新聞・週刊誌などは「オールドメディア」と貶められ、信頼性を失った。
とくに真実などそっちのけで、ここはわれわれの腕の見せ所だといわんばかりに、斎藤知事の「パワハラ」ぶり「おねだり」ぶりを、連日おもしろおかしく報じたテレビのワイドショーの低劣さは、叩かれた。
ところが、知事選が終わってから1か月、今度は当選した斎藤知事の選挙運動に協力したという代理店の女性社長の行為が、選挙違反にあたるのではないかという話題でもちきりになった。
その後も、N党の立花孝志氏が、自殺した兵庫県の元県民局長の公用PCの中身を公表し、その真偽を巡って紛糾している。
新聞・テレビなどを一括して、「オールドメディア」として断罪するのは大雑把すぎる。信頼性の失墜は、新聞・テレビという器の問題ではなく、そこで働いている人間の問題だからだ。
「オールドメディア」の末端には、「記者」や「ジャーナリスト」と称する連中が存在している。かれらが「テレビだぞ、新聞だぞ」となんでもできる力を手にいれたかのように錯覚し、「取材してやってるんだ」と驕り、調子に乗る。
とくにテレビは、ニュース番組でも視聴率を取ろうと必死である。人気のある人物や話題の人物に関するマスコミの取材合戦は過熱する。非常識な連中も出てくる。
中田英寿はスポーツ記者を面罵した
そのことでわたしが思い出すのは、もう四半世紀前の中田英寿の発言である。
1998年のサッカーW杯フランス大会で世界に認められた中田は、イタリアのペルージャに移籍した。21歳だった。
膨大な数の報道陣がペルージャに殺到した。同チームの選手たちに迷惑をかけても意に介さないような傍若無人な取材ぶりが伝わってきた。