シリアのアサド政権が崩壊した要因として、アサド政権を支援していたロシアの弱体化が挙げられる。実際、今も公表されているロシア経済のデータを見ると、ヒト・モノ・カネのすべてが不足している「不足の経済」に陥っている状況が見て取れる。統計データが表すロシアの真の姿とは。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ウクライナに侵攻してから1000余日。米欧日から経済・金融制裁を受けたロシア経済は強く圧迫された。しかし、この間に首都モスクワを訪問した識者は、ロシア経済の様相に特に変わった様子はないという。戦争前と変わらずモノがふんだんに存在するというのがその理由だが、それはモスクワだからという特殊な理由もあるだろう。
経済・金融制裁の狙いは、それまでの供給網(サプライチェーン)を寸断することで、経済活動の圧迫させることにある。当然、制裁を受けた側は、経済活動を維持できるように、代替ルートの確保と供給網の再構築に努める。ただし、そうしたスイッチングコストは大きいため、結局、制裁を受けた側の経済成長は下押しされることになる。
ロシアの場合、イランや北朝鮮と比べてもともと供給力が強いため、経済・金融制裁を受けているにもかかわらず、戦争前と生活が変わらないという印象につながるのだろう。とはいえ、ロシア経済が戦時経済化しているのは紛れもない事実だ。その結果、軍需が民需を圧迫していることも事実である。経済は成長していても、それは軍需主導だ。
ヒトモノカネという生産要素は有限だが、戦争が起きなければ、ロシアはそうした生産要素を通常の経済活動に集中して当てることができた。しかし戦争が生じ、またそれが長期化する中で、ヒトモノカネを軍事活動に集中せざるを得なくなった。当然だが、通常・平時の経済活動に当てることができるヒトモノカネはひっ迫する。
インフレの加速も、そうした理由から説明できる。需要が強い面も否定できないが、一方で民需に対応できるだけの生産要素を割り当てることができないため、民需に相応するモノ(やサービス)の生産が圧迫されている。つまりモノ不足が生じていることが、インフレの加速につながっていると整理できる。これはロシア中銀も認めるところだ。
ロシア中銀はまた、人手不足が深刻化していることも認めている。そこで、ロシア連邦統計局のデータより、人手不足がどのような業種で深刻化しているのかを確認してみることにした。ウクライナ侵攻後、ロシアは内容によっては統計データの公開を止めているが、一方で公開し続けている統計データの信ぴょう性はそれなりに高い。