今週は中国外交が活発に動いている。5月15日からの陳炳徳・人民解放軍総参謀長訪米、17日からのギラーニ・パキスタン首相訪中に加え、21日からは温家宝国務院総理訪日も予定されている。
日中韓首脳会議の結果については来週詳しく書くこととし、今回は米中軍事交流とウサマ・ビンラディン殺害後のパキスタン・中国関係を通じ、中国外交の戦略と戦術について考えてみたい。
突然延期された記者会見
陳炳徳総参謀長が米国に到着したのは15日、翌日にはワシントンのケネディセンターでの両国軍楽隊による初の合同演奏会に出席、17日にカウンターパートであるマイケル・マレン統合参謀本部議長との公式会談後、共同記者会見が行われる「はず」だった。
注目されたこの記者会見は20分前になって突然「延期」された。米国防総省の説明がふるっている。
「議論が生産的だったので、翌日水曜日も続けることを望んだ(the discussions were productive, so much so that they want to continue them on Wednesday)」ため延期されたのだそうだ。本当にそうなのか。
この種の外交的表現には注釈が必要である。当初は完全に中止されるのかと心配したが、幸い共同記者会見は翌18日に開かれた。延期の真相は不明だが、普通はこんなドタキャンはやらない。もしかしたら、17日の段階では「議論があまりにもかみ合わず、中国側が共同記者会見の中止を申し入れ、米側も仕方なく受け入れた」のではなかろうか。
陳総参謀長訪米前から、中国国営メディアは一貫して、米国の台湾に対する武器供与、中国の排他的経済水域(EEZ)における米軍の偵察活動と対中ハイテク技術供与の制限が米中軍事交流の3つの主要阻害要因だと報じてきた。
一方、米国がこれらの政策を変更するとは思えない。されば解放軍にとって今回制服トップを訪米させる実質的メリットはなさそうだが、それでも陳総参謀長が訪米を受け入れたのは、本年1月に訪米した胡錦濤総書記の強い意向があったからだと思われる。
面子を潰されかけた解放軍
前回書いたように、5月9~10日の第3回米中戦略・経済対話(S&ED)では米中外交当局が仕切る「戦略安全保障対話」が始まった。
恐らく解放軍側は、実に不本意な形で対話に参加し、米側の不愉快な対中批判を聞くよう事実上強制されたと感じたのではないか。
その翌週の訪米である。S&EDで中国側は米側要望を最大限受け入れた。だから今回、米国は人民解放軍側の意向にもある程度配慮してくれるだろう。陳炳徳総参謀長はこう思ったのではなかろうか。筆者がそう考える理由は次の通りだ。