「1.5度以内」目標、もはや不可能か
気候変動対策を話し合うCOPの歴史は、国家間の対立の歴史と言っても過言ではないでしょう。
現在の地球温暖化は、産業革命以来、工業の発展に伴って多くの温室効果ガスを排出してきた先進国の責任だと、途上国は主張しています。一方、先進国は再生可能エネルギーの普及が遅い途上国に対し、温室効果ガス排出量抑制への努力を求めてきました。先進国と途上国は、主に温室効果ガスの削減目標をめぐって対立を繰り返したのです。
1997年のCOP3で採択された京都議定書では、排出量削減の義務は先進国にのみ課されていました。大きく変わったのは2015年のCOP21で採択されたパリ協定からです。
この協定は、気候変動枠組条約に加盟するすべての国が削減目標・行動をもって参加することをルール化した歴史的な合意でした。その数は198カ国・地域に上ります。中国をはじめ経済の発展に伴って排出量が急速に増大する国が出てきたうえ、地球環境問題に国境はないとの認識が広がり、途上国を含むすべての国に排出量削減の努力を求めたのです。
パリ協定は、地球の気温上昇を産業革命前の水準から1.5度以内に抑えるという長期目標を掲げ、締約国に対し5年ごとに排出削減目標を作って提出するよう義務付けました。それに基づいて欧州連合(EU)は2030年までの目標として、1990年当時に比べ55%の削減を掲げました。
米国は2005年比50~52%減。中国はGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上削減するとしています。日本は2030年度に2013年度比46%の削減を掲げています。
各国がそれぞれの基準で目標を決めたのは、COPの「共通だが差異ある責任」という理念に基づきます。しかし、これらの目標では「1.5度以内」の目標達成は見通せません。世界の気温は現在も上昇を続けています。
EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2024年の世界の平均気温が過去最高の2023年を上回り、産業革命前と比べた気温上昇が初めて1.5度を上回るという見通しを発表しました。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年に発表した報告書は、「今後20年以内に1.5度を超える可能性がある」と警告していましたが、もう超えてしまったかもしれないのです。危機的状況と言えるでしょう。