途上国の厳しい現実、南スーダンでは国土の15%が年中水浸し

 2009年にデンマークのコペンハーゲンで開かれたCOP15において、先進国から途上国に対し年1000億ドル(約15兆円)を提供する目標を2020年までに達成することに合意していました。しかし、実際に目標額に達したのは2年遅れの2022年。先進国からの資金がなかなか集まらなかったのです。

 途上国側はCOP29で、年1.3兆ドル(約195兆円)が必要だと主張していました。しかし、11月22日までだった会期を延長して交渉を重ねた結果、3000億ドルに収まったのです。途上国には不満が残りました。インド代表団の1人は、合意文書に対し「これは幻覚に過ぎない」と不信を訴えたことが世界中に報道されました。

 途上国側の主張は強硬に見えるかもしれませんが、背景には厳しい現実があります。

南スーダンは洪水が深刻な被害を及ぼしている=2021年撮影(写真:AP/アフロ)

 例えば、アフリカの南スーダン。ここ数年続いた大雨で洪水が頻発し、国土の約15%が1年中水に浸かったままで、住民は移転を余儀なくされています。食料不足も深刻ですが、南スーダンは2011年に独立したばかりで政治が安定せず、気候変動対策に手が回らない状況です。

 海に浮かぶ島国では、温暖化による海面上昇の脅威にさらされています。海面上昇は今後数百年続き、2300年には最大で7メートル上昇するとの予測もあります。

 1000以上の島からなるインド洋上の国家モルディブでは、2050年までに国土の80%が人の住めない土地になると懸念されています。住民生活に欠かせない電力はディーゼル発電に頼っており、太陽光など自然エネルギーへの転換を目指しても、コスト上昇で計画が頓挫する状態です。

 こうした事態を抑制するためには、途上国への資金援助が欠かせません。気候資金は温室効果ガス排出削減などの「緩和策」、および、災害に備えるインフラ整備などの「適応策」に使う目的です。先進国も財政難などの問題を抱えていますが、途上国の気候変動対策を後押ししなければ、世界全体の気候変動対策が前に進まなくなるのです。