トランプ氏の米国はパリ協定から離脱か

 各国は2025年2月までに2035年を見据えた新たな削減計画を提出することになっています。COP 29の場で、2025年のCOP 30議長国となるブラジルは2005年比で59〜67%削減する目標を提出。英国は1990年比で81%減という高い目標を提示しました。日本は2013年度比60%減を示す方向で検討中です。

 温室効果ガス排出量で世界第2位の米国はどうでしょうか。

 米国の「50〜52%減」の削減目標は、バイデン大統領が2021年に掲げたものです。しかし、2025年に就任するトランプ次期大統領はパリ協定からの離脱を公言しています。実際に離脱となれば、米国は温室効果ガスの削減目標を放棄することになりかねません。

米国の次期大統領に就任するトランプ氏は気候変動対策に後ろ向きだ。2024年10月、フロリダを襲ったハリケーンの被災地を視察した(写真:AP/アフロ)

 トランプ氏は石油や天然ガスなどの化石燃料を増産する考えを示しており、米国の排出量は急増することも予想されます。途上国への資金援助の枠組みからも外れるため、欧州などでは米国が抜けた場合にその穴をどうカバーするかの議論が活発になっています。

 世界最大の排出国である中国に対し、いかに気候問題への責任を果たすように働きかけるかも大きな課題です。中国は世界第2位の経済規模を持ちながら、気候変動対策においては「途上国」のカテゴリーに位置付けられているのです。自らが経済発展する権利を主張し、排出削減には消極的姿勢が目立っています。

 中国は再生エネルギーの開発や電気自動車の普及などに力を入れているものの、地球温暖化の進行に歯止めをかけるには至っていません。他の途上国へ独自の財政支援も行っていると主張していますが、協力国を増やす世界戦略の一環という側面もあり、広い理解を得られていません。

 米国では近年、ハリケーンによる被害が激甚化し、大きな問題となっています。中国でも北部では干ばつ、南部では洪水が頻発し、減速傾向にある経済に追い打ちをかける可能性も出ています。気候変動対策はどの国にも共通した課題であるという認識を共有し、国際協調を図る姿勢が求められています。

西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。

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