アメリカ大統領選挙の勝利後、テスラCEOのイーロン・マスク氏を政府効率化省のトップに据えることを表明したトランプ氏。選挙戦の後押しへの論功行賞ともいえる処遇だが、テスラにとってトランプ氏がもくろむパリ協定再離脱やEV補助金廃止は逆風でもある。果たしてマスク氏がトランプ氏を支援した真の狙いは何だったのだろうか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。(JBpress編集部)
相思相愛でなくても権力者の懐に入り込むマスク氏の「戦い方」
激しい選挙戦を制してアメリカ大統領に返り咲くことになった共和党のドナルド・トランプ氏。その戦いを後方から強力に支援したのは、BEV(バッテリー式電気自動車)世界首位企業、テスラのイーロン・マスクCEOだった。
トランプ氏は2016~2020年の第1期政権で国際的なCO2排出量削減の枠組みであるパリ協定から脱退。岩盤層に含まれる油分を取り出すシェールオイルの採掘を推進するなど“石油産業の保護者”という一面を見せた。道路交通部門におけるCO2排出量削減のコアテクノロジーであるBEVを中核ビジネスとするテスラとは一見相いれない印象がある。そのCEOを務めるマスク氏はなぜトランプ氏支援に回ったのか。
マスク氏はもともと民主党寄りを基本としながらも共和党とも関係を持つというスタンスを取っており、支持政党を明確に打ち出すことを是とするアメリカでは一風変わった存在だった。
民主党との関係を大いに深めたのはバラク・オバマ大統領時代である。環境関連産業の振興で経済成長と雇用促進を図る「グリーンニューディール」を提唱したオバマ大統領は、政策のシンボルの一人としてマスク氏を寵児扱いし、アメリカの環境政策の要人としての地位を固めていった。
その流れで第1次トランプ大統領政権下では政策・戦略フォーラムの助言メンバーとなったマスク氏だが、トランプ大統領がパリ協定からの離脱を決定するとそれに反発して委員を辞任した。
バイデン大統領時代には民主党の政治方針に反発して共和党支持へと変わっていったが、今回の大統領選でも最初は共和党内におけるトランプ氏の対立候補、ロナルド・デサンティス氏を支持していた。トランプ氏に接近したのはデサンティス氏が共和党候補争いから撤退した後のことである。
この一連の流れを見る限り、トランプ氏と相思相愛というわけでは決してない。にもかかわらず相手が強大な権力を手にすると見るや平然とその懐に入り込むのがマスク氏の戦い方と言える。