源倫子から紫式部に贈られた「菊の着せ綿」とは?
今回のドラマで最も印象的だったのは、道長が初めて倫子の顔を見たときに、目をそらしたことである。道長の気持ちが本当はまひろ(紫式部)にあることがあからさまに分かってしまう描写がSNSで話題になった。
しなだれかかっていく倫子に、空虚な表情で応じながら、ひたすら役割を果たそうとする道長。今後、彼がさらに大きな変貌を遂げていく兆しを感じずにはいられなかった。
だが、誰よりもつらいのは、まひろだろう。ドラマでは、まひろが左大臣家の勉強会に参加することになり、次第に溶け込んでいく姿が描かれてきた。一人だけ身分が低く、立ち居振る舞いが洗練されていない。そんなまひろのことを、いつも気にかけてくれたのが倫子である。
まひろにとって、倫子は身分が高いだけではなく、非の打ち所のない気遣いにあふれた女性だ。それだけに、道長が倫子のところへ婿入りすると聞いたときには、心を大きく揺さぶられることとなった。
このドラマでは、これまで左大臣家の集いにおいて、まひろと倫子がまるで違う身分にもかかわらず、距離を縮めていく様子が丁寧に描かれてきた。それは「道長との結婚」をひとつの山場にするための前フリだったのだろう。
今後のまひろと倫子の関係が気になるところだが、史実では寛弘2(1005)年から、紫式部は藤原彰子のもとに出仕することになる。彰子とは一条天皇の中宮であり、藤原道長と倫子との間に生まれた長女である。
彰子の出産が近づいてきた頃、寛弘5(1008)年9月9日には倫子から紫式部に「菊の着せ綿」の贈り物があったのだという。というのも、9月9日は「重陽の節句」で、菊の花を飾ったり、菊の花びらを浮かべた菊酒を飲んだりしながら、不老長寿を願う宮中行事が行われていた。
9月8日の夜にうちに真綿を菊花の上にかぶせ、露や菊の花の香りを移しておいて、翌9日の朝にその綿を使って体や顔を拭うと、老化防止になり若返ると考えられていたのだ。このときに、露や菊の花の香りが移った綿のことを「菊の着せ綿」と呼ぶ。