娘が道長と結婚することに反対していた源雅信

 第12回「思いの果て」では、ついに藤原道長が結婚を決意する。相手は源雅信の娘で、黒木華演じる源倫子(ともこ)だ。源雅信は宇多天皇の第八皇子・敦実親王(あつみしんのう)の三男にあたるため、道長側からすれば血筋として申し分ない。

 だが、源雅信からすれば、「天皇の后にしたい」と考えるほど大切に育ててきた娘である。平安時代の歴史物語『栄花物語』によると、娘を道長のような「口わき黄ばみたるぬし」(青二才)にやることなどできないと雅信は考えて、結婚話を「あな物狂ほし」(バカバカしい)と即却下したという。

 このとき道長はまだ22歳。兼家の五男(嫡妻の子としては三男)の道長が、まさか貴族社会の頂点に立つとは微塵も想像されていなかったことが、この逸話からよく分かる。

 ドラマではそこまで強いニュアンスではないが、やはり雅信は道長との婚姻に乗り気ではない様子が描写されていた。ところが、娘の倫子の方から「藤原道長様をどうか私の婿に」と懇願されてしまう。「叶わねば、私は生涯、猫しか愛でませぬ」とまで言い出して、しまいには泣き出したので、雅信が慌てて「わしは不承知とは言ってはおらんのだから……」と口を滑らせた。

益岡徹演じる源雅信(右)と黒木華演じる源倫子(写真:NHK番組公式サイトより)

 すると、待ってましたとばかりに「よかったわね、倫子」と、倫子の母で石野真子さん演じる藤原穆子(むつこ)が登場。「父上は今、不承知ではないとおおせになりましたよ。この話、進めていただきましょう。あなた、よろしくお願いいたしますよ」とダメ押しすることになった。

 文献でも、穆子は道長の姿を賀茂祭や行列などで見ては、「この君ただならず見ゆる君なり」と感心して、その才を見抜いていたとされている。道長が倫子と結婚するプロセスは、文献におおむね沿ったものだといえそうだ。