「ほのぼの」と「シリアス」の落差がスゴすぎる
周囲の祝福ムードにどこか不満そうにしながら、成人を迎えた紫式部だったが、思ったよりも元気な姿にほっとした……そんな視聴者も多かったのではないだろうか。
なにしろ、初回となった前回の放送回では、紫式部の母が刺殺されるというショッキングな展開が最後に待っていた。泣き叫ぶ少女時代の紫式部の姿には、胸がつぶれる思いがしただけに「よくぞここまで育ってくれた」と、第2回にして主人公をねぎらいたくなってしまった。
紫式部が幼くして母を亡くしたのは事実だが、産後の経過が悪く、病死だったとされている。それを今回のドラマでは「実は藤原道兼が殺したのだが、周囲によって隠ぺいされて、病死ということになった」という設定になっている。
しかも、そんな隠ぺい工作を行った一人が、紫式部の父、藤原為時だというから、なお悲劇的だ。藤原道兼の父である兼家が実力者であるため、将来のことを考えて、為時は真相を明らかにすることを避けたのだった。
初回を見ていない視聴者にもわかりやすいように、藤原為時に藤原宣孝がこう語りかけている。
「ちはや殿の死因を病(やまい)としたのはよい了見であった」
しかし、6年前の事件から今日にいたるまでずっと、紫式部は母が殺されたこと、それを父が偽って病死としたことを、忘れた日はなかった。
第2回の終盤では、紫式部は父と衝突。紫式部が代筆の仕事を行っていたことが、父の耳に入ってしまい、こう激怒される。
「そなたがわしと口を利かぬのは、それでもよい。されど、学者である父の顔に泥を塗るようなことは断じて許さん! 家で写本を作るのは良いが、代筆仕事などにうつつを抜かすようなこと、あってはならん!」
これに対して紫式部は、秘めていた思いを父にぶつけている。
「代筆仕事は……私が私でいられる場所なのです。この家では死んでいるのに、あそこでは生きていられる。いろんな人の気持ちになって、歌を詠んだりするときだけ、6年前の出来事を忘れられるのです! 母上と私を裏切った父上を忘れられるのです!」
父は怒りに震えながら「黙れ! 6年前といえば、わしがおじけづくと思っておるな! 父をなめるでない!」と叱りつけて、娘の外出を禁じている。
やはり、あの日以来、二人の親子の間には、ずっと暗い影が落ちていたのだ。そのことが、改めて明らかにされることとなった。
第2回は第1回と比べても、ほのぼのパートも多かっただけに、シリアスパートとの落差が激しく、心がいっそう揺さぶられた。思えば、そんな両端をいったりきたりするのが、人生というもの。高貴さと暴力性を兼ねそろえた平安時代は、特にそうだったのかもしれない。
次回の第3回は「謎の男」。兼家や道兼らの陰謀が本格化し、紫式部もまた巻き込まれていくことになる。
【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)
【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』など。