中国のハッキングの規模は倍々ゲームで拡大
レイ長官によると、中国はハッキングによって盗み出した先端技術とデータに基づいてAI(人工知能)を構築、そのAIを悪用してさらに多くのAI技術とデータを盗み、ハッキング活動を向上させるために使用している。その規模は倍々ゲームで拡大されていく。
「中国政府によるサイバー脅威は巨大だ。中国のハッキング・プログラムは他のすべての主要国のそれを合わせたものよりも大きい」(レイ長官)。「ボルト・タイフーン」は重要な通信、エネルギー、水、その他インフラのネットワーク内に潜伏していた。
北京は時機到来と判断すればいつでも攻撃できる態勢を整えていた。その標的は米国だけでなく、世界中に広がっていた。FBIも手をこまぬいていたわけではない。同盟国と協力し、共同技術作戦によって「ボルト・タイフーン」のアクセスを遮断した。
「フラックス・タイフーン」も破壊した。
「サイバー攻撃と伝統的なスパイ活動、経済スパイ活動、選挙妨害、国境を越えた弾圧を組み合わせているため、中国のサイバー脅威はより有害になっている。中国は法治世界の安全保障を損なうことに政府全体を投じている」とレイ長官は警鐘を鳴らす。
サイバー空間だけではなく、宇宙空間でもAIを支える半導体の処理速度が米中対決の雌雄を決する。半導体の研究開発・製造を市場と政府、ネットワークに頼る西側と、国家主導で一国内にサプライチェーンを抱え込む中国とどちらが勝つのかは予想もつかない。
【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。