ロシアの底力を見た
ガポノフ氏は「時が経つにつれ、人々は事態の深刻さを把握し、すぐには家に帰れないということを認識し始めた」と指摘する。
先が全く見えない中、これからのことを考えるのは、特に高齢者にとって負担がとても大きい。中には精神的に不安定になったり、ボランティアに対して攻撃的になってしまう人もいる。
このような現場はギスギスしがちなものだが、ガポノフ氏は穏やかに微笑みながら話す。
「避難されてきた方は、心を痛めています。そして私たちも、とても疲れています。でも、私たちはくよくよせず、ポジティブな気持ちで仕事をしています」
「ネガティブな場面に直面することはしょっちゅうですが、私たち赤十字クルスク支部のメンバーは、ほぼ現役の医師や医大生から構成されているので、感情的にならずに、そういった場面でも上手く対処することができています」
「全体的には、感謝の念を持ってくれていますし、この仕事への意欲は尽きません。近いうちに状況が安定することを望んでいます」
赤十字では、市民の寄付で集まった秋冬用の服を無料配布している。
中にはタグのついた新品もあり、店で買い物をする感覚で、洋服を選ぶことができる。
仕分けをするボランティアは、越境攻撃後に志願してきた人たちで、中には高校生もいる。
また、赤十字とは別の民間のプロジェクトもあり、市内のデパートでは、避難者に新品の靴や服、鞄などを配布する店(と言っても無料)ができている。私が訪れた時には大行列だった。
クルスク市では、特定の場所に行けば、避難者と出会う機会がある。
しかし逆に言うと、このような大きな町では、特別に探しに行かない限り、避難者が増えたことによる変化に気づくことは難しいだろう。
日本では、クルスク侵攻がロシア崩壊の一歩だという論調の報道も見かけるが、これだけ大変なことが起こっても変わりなく生活するロシア人の姿を見て、私は逆に、ロシアの屋台骨は揺るがないだろうという感想を抱いた。
ロシアの底力、特に民間のパワーを感じたクルスク州滞在だった。