市内のあちこちで聞かれる槌音

 よく見ると原発本体だけでなく、市内のあちこちで工事が盛んに行われている。マンションや文化施設、広場、噴水などだ。

 原発の新人職員が研修するための実験棟も完成間近だ。市長によれば、およそ1万人がクルスク第2原発の建設に従事している。

 その人たちが生活するインフラに加え、第2原発稼働の暁には、住居や交通手段などがさらに必要になる。

 原発の町というと、地味な過疎地かと思ったが、海辺の様子はイメージと逆だった。

 キャンプ場もあれば、散歩する親子連れやカップル、釣りをする人、草むらでキノコ狩りをする人もいる。皆がそれぞれに余暇を楽しんでいる。

 誕生日を祝っていた女性5人組は、海水浴しようとしていたが、市長が「遊泳許可のシーズンは過ぎていますよ」と丁寧に注意していた。

 この日差しでは、泳ぎたくなるのもよく分かる。

 後でクルスク市内に戻ったとき、泊まっていたホテルの人に「クルチャトフに行ったの?良かったね、綺麗だったでしょう」と言われた。

 聞けば、クルスクの人にとって、クルチャトフは自然や海(という名の貯水池)を楽しむために、遊びに行く場所なのだそうだ。

バラに囲まれているトム・ニコラエフの像

 クルチャトフでは、あちこちにバラが咲いている。その中で、ひときわ沢山のバラに囲まれた銅像があった。

 かつてクルスク原発の技術責任者だったトム・ニコラエフである。

 チェルノブイリ原発は、動作実験中に制御不能になり事故に至ったが、実はこの実験はもともとクルスク原発で行う予定になっていた。

 ニコラエフはこの実験の危険性を認識して断固拒否したため、実験の舞台はチェルノブイリに移った。

 その意味でニコラエフはこの町を救った人物である。毎年寒くなると、住民が銅像にマフラーをかけてあげるのが慣わしだ。