実験的な販売戦略、端末価格60万円

 アップルが「空間コンピューター」と呼ぶこの製品は、①完全にデジタルの映像世界に没入させる仮想現実(VR)と、②目の前の現実風景にデジタル情報を重ね合わせて表示する拡張現実(AR)、を融合させた複合現実(MR)のヘッドマウント端末だ。

 オペレーティングシステム(OS)「visionOS」を搭載しており、ユーザーは目、手、声を使って操作し、ゲームやエンターテインメント、ビジネス、教育分野など様々な用途で利用できる。

 アップルによれば、動画配信サービス「Apple TV+」をはじめとする様々なプラットフォームのコンテンツを幅100フィート(約30メートル)相当の画面で視聴できる。

 このほか米マイクロソフトの「Microsoft 365」や、米セールスフォースの「Slack(スラック)」といった生産性・協調作業アプリも利用できる。Vision ProはApp Storeを搭載しており、iPhoneやタブレット端末「iPad」向けに提供されている100万種類以上のアプリが利用できる。

 ただ、端末価格は3499ドル(日本では59万9800円)からと、高価だ。これについてWSJは、「アップルは、実験的な戦略でVision Proを発売した」と報じている。つまり、幅広い消費者に受け入れられる前に、高価格製品を市場投入し、まだ初期段階にあるこの業界に弾みをつけようとした。しかし、Vision Proが人気を得るには、iPhoneで用意されているようなキラーアプリが必要だった。

 これまでのところ、多くの開発者が様子見段階にあるため、この端末のエコシステムはゆっくりとした進展にとどまっている。

VR・AR端末の世界出荷台数、24年は1.5%減

 米調査会社IDCによると、VR・AR端末の24年4〜6月期の世界出荷台数は、前年同期比28.1%減の110万台にとどまった。米メタが60.5%のシェアでトップとなり、その後ソニー、アップル、中国・北京字節跳動科技(バイトダンス)、中国XREAL(エックスリアル)と続いた。減少は今後も続くと予想され、24年の年間出荷台数は前年比1.5%減の670万台になる見通しだ。

 一方、25年は新しいテクノロジーと、より手頃な価格の端末が登場し、市場は41.4%の成長を遂げるとIDCはみる。28年には2290万台にまで拡大し、それまでの5年間の年平均成長率(CAGR)は36.3%になると予測している。