イギリスの食を向上させたい

「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」展示風景

 デザイナーとして、実業家として大きな成功をつかんだコンランだったが、現状に留まることはなかった。イギリスには優れたデザインもファッションも音楽もあるのに、食はダメだ。そう考えていたコンランは1980年代後半にレストラン事業に力を注ぎ始める。高級レストランからカジュアルなカフェまで様々な食体験の場を提供。ハーブやスパイスを取り入れた「モダン・ブリティッシュ」の料理スタイルをイギリスに定着させていく。

コンランが手がけたレストラン「ブルーバード」(1997年開店) Photo: Alex Pareas, Courtesy of Conran and Partners / Courtesy of the Conran family

 コンランが手がけた飲食店は50店舗以上。店のコンセプトや内装はもちろん、ロゴ、メニュー、スタッフの制服、灰皿、マッチ箱に至るまで、コンランはこだわりをもって細かくディレクションを行った。1997年に開業したロンドンの「ブルーバード」は、レストラン、クラブ、バー、フードマーケットから成るガストロドローム。ここのクラブを気に入った森ビルの森稔社長(当時)は赤坂アークヒルズ内「アークヒルズクラブ」のデザインをコンランに依頼している。

デザイナー人生を全う

「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」展示風景

 コンランが関わった事業はまだまだある。廃れていたロンドンの倉庫街の再開発事業を引き受け、集合住宅、レストラン、オフィスなどで構成される人気エリアに生まれ変わらせた。コンランはこの再開発エリアに、産業デザインをテーマにした世界初の「デザイン・ミュージアム」を開設。デザイン・ミュージアムは2016年にサウスケンジントンへ移転、現在もデザインが社会に果たす役割や意義を発信し続けている。また、コンランは執筆にも精力的に取り組んだ。住宅に関するハウツーやアイデアを詰め込んだ著書『The House Book』は250万部以上の売り上げを記録している。

コンランの著書『The House Book』(ミッチェル・ビーズリー刊) 1974年 Courtesy of the Conran family

 様々な仕事に取り組み、常に多忙だったというテレンス・コンラン。だが、その軸は決してブレることなく、デザイナーとしての生き方を全うした。コンランは週末に家具などのスケッチを描き溜め、月曜の朝に工房に持参し、必ず小さなマケットで試作してから実作の製作にとりかかったという。ものづくりの人間として、自らの手を動かすことがコンランの基本だった。

 コンランはこんな言葉を残している。「私はデザインとともに生きている。一日中、そして夜もずっと、モノや空間のデザインについて考えている」

「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」展示風景

 

「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」
会期:開催中~2025年1月5日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00~18:00(〜20:00)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし11月4日、12月23日は開館)、11月5日(火)、12月29日(日)〜1月1日(水)
お問い合わせ:03-3212-2485

https://www.ejrcf.or.jp/gallery/