画期的なショップ「ハビタ」開業

 コンランが頭角を現したのは1960年代のロンドン。ビートルズ、ツイッギー、マリー・クワントといったアイコンが登場し、音楽、アート、ファッションなど様々なジャンルで若者文化が花開いた時代だ。家具とテキスタイルのデザイナーとして活動していたコンランは、そうした時代の波に乗り、常識にとらわれない斬新なアイテムを生み出していく。

 1962年に立ち上げた家具〈スーマ〉シリーズ。これは家庭用KD(ノックダウン式)家具と呼ばれるもので、持ち帰り、組み立て、すぐに使い始めることができる。今では珍しくないが、当時は「ミニスカートのように革新的なもの」だったという。

コンランがデザインした家具の模型 ザ・コンランショップ(UK)蔵 Courtesy of the Conran family

〈スーマ〉は好評を得たが、コンランは販売店での商品の扱われ方に不満を抱く。思うようなスタイルで並んでいないことに落胆し、自ら小売店を始めたいと願う。そして1964年、コンランはチェルシーに「ハビタ」第1号店をオープン。家具やインテリア用品、キッチンアイテムといった商品は、在庫のすべてを店頭に高く積み上げて陳列。客が気軽に手に取り、買い求めやすいよう、スーパーマーケットのようなワイヤーバスケットやカートを採用した。店員はマリー・クワントのユニフォームを着用。ヘアスタイリングはヴィダル・サスーンに依頼した。

「ハビタ」は瞬く間に人気ショップになった。モノを売るだけでなく、人々が憧れつつも簡単に手に入れることができるような、暮らしのスタイルのお手本も提供する。ハビタに行くということは、ショッピングだけでなく、そこに来る流行に敏感な人たちや最新の音楽に出会えるということでもあった。

 さらにコンランは1972年に新業態「ザ・コンランショップ」の展開に乗り出す。世界から良質なデザインとプロダクトを集めた“セレクトショップの先駆け”。こちらも世界的ブームを巻き起こし、1994年には日本にも進出している。