「危険運転致死罪」への訴因変更を求めて検察に意見書提出

 本件事故で亡くなった一匡さんは本田技術研究所に勤務するエンジニアで、長年、自動車の安全に関する研究を続けてきました。自身でまとめたワークシートの中には、『2050死者ゼロ目標に感銘を受け、何とか実現させたいともがく日々』という記載もありました。

(外部リンク)Honda | 2050年交通事故死者ゼロに向けた、先進の将来安全技術を世界初公開

 多恵子さんは語ります。

「主人はホンダの掲げた『交通事故死者ゼロ』の目標に向けて、日々取り組んでいました。交通事故被害をなくすため、信念を持って仕事を続けてきた人が、無謀な運転によって一方的に命を奪われるとは……。主人の気持ちを思うと本当に無念でなりません。

 主人は『車』という武器で殺されたとしか思えません。命あるものに対して行った残虐な行為、何の落ち度も、罪もない人の命を奪った事実に対して、裁判所には厳しく裁いていただきたいと思います。失われた命は二度と取り返すことができないのです」

 交通事故の中には、不幸な偶然が重なって起こるものと、飲酒、信号無視、超高速運転など、ルール無視の無法者によって、起こるべくして引き起こされるものがあります。「危険運転致死傷罪」は、後者のような事故を起こした運転者を厳格に裁くために設けられたはずですが、その適用にこれほど高いハードルがあるのはなぜなのでしょうか。

 現在、法務省では、こうした悪質運転による交通事故に対処するため、「自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会」を開き、刑法の専門家や交通事故遺族らで議論を進めています。

 今も悪質運転による多くの被害者遺族が疑問を抱きながら苦しんでいます。明確な適用要件や類型の見直しが急がれます。