友人のバイクと“競争”の末の事故

「実は、捜査の中で防犯カメラの映像が解析され、加害者は衝突地点の200メートルほど手前で時速161~162km出していたことが判明しました。現場の法定速度は時速60kmです。加害者はこの道で100kmもオーバーしてアクセルを踏み続け、その挙句、前を走っていたバイクに気づかず追突し、主人を死なせたのです」

 時速160kmでの追突、その衝撃の大きさは双方の事故車にしっかりと刻まれていました。以下の写真は、一匡さんが死の間際までまたがっていたスクーターを多恵子さんが警察署で撮影したものです。実は、事故車を一度も見ていないという多恵子さんに、「つらいと思いますが、今すぐ写真を撮っておくべきです」と助言したのは私でした。事故処理の理不尽さを第三者に訴えていくには、現実を直視すること、そして証拠を独自に保全することが不可欠だと思ったからです。

一匡さんが乗っていたスクーター(遺族提供)
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 この写真が送られてきたとき、私は多恵子さんの覚悟を見た思いがしました。スクーターは、リヤショックがちぎれ、フレームは持ち上げられ、車体はVの字に折れ曲がっています。もはやライダーが乗るスペースはどこにもありません。

 取り残されたリヤタイヤをよく見ると、アルミ製のホイールが砕けているのがわかります。原形をとどめないほど破損した夫の事故車を直視する……、どれほどの勇気が必要だったことでしょうか。

一匡さんが乗っていたスクーター。後輪のホイールも砕け散っている(遺族提供)
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「加害者は衝突直前、友人のバイク2台と競争のような走りをしていたこともわかっています。そもそも、一般道で162kmも出し、死亡事故を起こすという行為は、危険運転致死傷罪の『制御することが困難な高速度』には当てはまらないのでしょうか。

 この無謀で残虐な行為を、単なる不注意による“過失”で済ませてよいのか……、私はどうしても納得できなかったのです」(多恵子さん)