父親の「未来予想図II」

 Hさんの長女はこの春、大学を卒業し、今は実家を出て東京で働いている。彼女は現在、奨学金を返済中だ。Hさんが副業していたカラオケボックスは、その後、近くにできたライバル店に客を奪われ閉店した。

「カラオケの副業でいいことは何もなかった。副業した数年間はずっと寝不足でした。昼間の仕事は気合で乗り切っていた」

 Hさんはくたびれた、それでも優しい父親の声で語る。

「僕は高卒でスキルもない40代ですから、転職もできないし、給料も上がらない。だから下の子も大学に行きたいといったら、やはり行かせてあげたい」

 Hさんは下のお子さんたちのために、これからも副業を模索するという。

 今のところHさんはオーバーワークで大きく健康を害してはいないが、これまで取材した副業おじさんの話では、学費ねん出の副業のために突然死した人もいたと聞く。

 一体、大学には何のために行くのだろう。

 教育基本法、第7条に「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする」とある。

 その大学が親や学生を追い詰めるものになるなら、「大卒」の肩書は金を払った人間の領収書に過ぎないではないか。

若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。