残酷なワンオペのテーゼ

 Hさんが副業したカラオケボックスは、激安で有名な全国チェーンだ。深夜の時給は1400円。市内のはずれにある店舗は、深夜もそれなりに賑わっていた。

 Hさんは週に2〜3日、本業を終えていったん自宅に帰り、夕食と短い仮眠を取ってから深夜0時〜朝5時まで働いた。これで月5万円ほどの収入になった。

「本業が終わるのが18~19時ごろ。そのまま別のバイトに行くことも考えましたが、家族と一緒に夕食は取りたい。そうなると近所で夜中に働くのが一番マシな選択でした」

 ところが、深夜勤務はたった1人で客を迎えなければならない「ワンオペ」だったのである。

「ほとんど客が来ない夜もありますが、来るときは来ます。3次会、4次会の酔った客を部屋に案内し、ドリンクや食事の注文、唐揚げやポテトを揚げる。団体客は『とりあえずどんどん頼め』という調子なので、飲み放題にされると追加の内線が鳴りっぱなし。一人ではとても回せません」

 客室から聞こえるヘタクソな「あいみょん」も「クリスピーナッツ」もどうだっていい。眠気と疲労との戦い、助けの来ないワンオペの夜は長い。

「一番空しいのは、客がハケた後の片付け。大変な思いをして料理を作っても、ほとんど食べてない。疲れがどっと襲う瞬間です……」

 飲食店のワンオペ問題が最初に表面化したのは2014年。牛丼チェーン「すき家」で、深夜に店員が1人で店を切り盛りする過酷さに批判が集まった。

 その後、「すき家」は全店舗で深夜のワンオペの休止の発表したが、2022年1月に50代の女性従業員が早朝のワンオペ勤務中に死亡、そのまま3時間誰にも気づかれないという悲劇が起こる。

「すき家」に限らず、24時間営業のチェーン店は、客の少ない営業時間の人件費を抑えようとワンオペに走る。最近は人手不足でやむを得ずワンオペになる店も少なくない。

 ワンオペは適切な休憩時間を取れば法律違反には当たらないが、痛ましい事故が起こったにもかかわらず、ワンオペがなくなる気配はない。