きれいごとでは復興できない

喜田:基本的には、平野に位置する浦上公民館近くに公営住宅を建設し、住民同士の顔が見えるコミュニティをつくっていくことが重要だと考えています。

 浦上地区には「1世帯で構成される集落」もあります。地震の影響でライフラインが寸断された今、これまでのように暮らすことは事実上不可能でしょう。

門前町深見

 浦上地区は地震前から、人口の約7割が65歳以上という限界集落でした。私が区長会長に就任した14年前から約70世帯・100人が自然減しています。通院や食材の買い出し、除雪といった日々の暮らしも、それぞれが離れて住んでいては持続できなくなるでしょう。さらに住民の2割以上が80歳を超えています。孤立するよりも近所の人と顔を合わせられる暮らしの方が、認知症の予防にもなると思います。

 みんなインフラの復旧や地域の復興ということを言いますが、きれいごとでは復旧・復興は進みません。災害前の状況に戻そうなんて、住民にしてみれば腹の中で「そんなのダメに決まっとるわい」と思っているのではないでしょうか。特に被害が大きい山間部の住民の中には、持ち家や所有している山を「国が引き取ってくれないか」とまで言っている人もいます。

浦上公民館を囲む山々

 私自身、75年の人生で水害を3度、地震も何度も経験しましたが今回の地震と水害のように大規模で、しかもそれらが1年のうちに襲うという経験はありません。もともと限界集落で厳しい生活を強いられていたうえに今回の天災が起き、住民は壊滅的なダメージを被りました。

 豪雨となった9月21日の午前中、私は100メートルほど離れた自宅から公民館に向かおうと車を走らせましたが、車ごと河川の氾濫に巻き込まれました。たまたま流木に車が引っ掛かり、水が引くまで30分ほど、車に待機していたのです。

門前町深見

 先ほど、これほどの水害は人生で初めてだと言いました。初めてという意味は、雨量はもちろん、流木がとにかく多いという意味でもあります。

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