朝から晩まで小言が止まらない

■落語『小言幸兵衛』のあらすじ

 麻布古川の長屋の家主の幸兵衛、人呼んで小言幸兵衛とあだ名されるほど、速射砲のように小言を言いまくっては長屋中を歩いています。

 今日も朝から小言を言い続けて帰宅すると猫や婆さんにまで小言を言うありさま。そんな折、長屋を借りたいと言葉使いの乱暴な豆腐屋がやってきた。この町内に豆腐屋はなかったのでこれはありがたいといったん了解するのだが、「子どもはいるか」との問いに「ガキは小汚くて商売に邪魔になる。一匹もひりださないのが自慢だ」なんていうものだから、幸兵衛が怒った。

「子どもは子宝、さずかりものだ。離縁をしろ」などと持論を展開すると今度は豆腐屋が、のろけ混じりに泣きながら激怒して帰っていく。「まごまごしやぁがると、どてっ腹け破って、トンネルこしらえて汽車ぁたたき込むぞ」との捨て台詞を残して。

 入れ替わりにやってきたのが仕立屋。「仕立て職を営(糸)んでおります」などと幸兵衛さん好みの口のきき方で、その丁寧な話しぶりに幸兵衛さんは気持ちもよくなるのだが、家族の構成を聞き、女房と二十歳(はたち)の男前の一人息子がいると知って、幸兵衛さんの顔色が一気に暗くなり、「家は貸せない」という。

 幸兵衛さんが「筋向かいの古着屋がある。仕立屋と古着屋は仲のいい商売同士だ。仕立屋の一人娘のお花は十九で器量よし。お前の家のせがれとはそのうちいい仲になり、やがてお花は妊娠する。お互い一人息子と一人娘、嫁にもらえず、婿にもやれずで、心中となるに違いない!」と思い込む。さあ、ここから幸兵衛さんの妄想に拍車がかかり、芝居調になってゆく。

 そして幸兵衛さんの芝居調とは裏腹に、仕立屋のせがれの名前が「鷲塚与太左衛門」などという傍若無人なものだったり、それぞれの宗旨も心中に似つかわしくないものだったりと、ことごとくイメージに合わないものばかりで、業を煮やした幸兵衛さんが「出て行け」と言い放つ。

 その次に入って来たのは、打って変わって豪放磊落(らいらく)な男。幸兵衛さんが家族は?と問いかけると「河童野郎と山の神と道六神だ、ガキとカカアとお袋のことだ」

「化け物屋敷だな。で、お前の商売はなんだ」

「花火屋だ」

「花火屋か、道理でぽんぽん言い通しだ」

 幸兵衛さんの「思い込みの激しさぶり」がどんどんエスカレートしてゆくさまが面白い一席で、師匠の談志も頻繁に高座にかけていたものです。