核合意の翌年の2016年には6.9%まで下がったインフレ率が、2021年8月に保守強硬派のライシが大統領に就任した翌年の2022年には45.8%にまで跳ね上がった。
イランの通貨リアルの価値も、2018年には1ドルが約4万リアルだったのが、今は約60万リアルと約15分の1に下落している。
このような経済情勢への不満がペゼシュキアンを当選させたのである。
しかしながら、最高権力者のハメネイ師は、当選したペゼシュキアンに対して、保守強硬派のライシ大統領の方針を継続するように求めている。ペゼシュキアンはそのジレンマの中にいる。
一方のアメリカは大統領選挙のまっただ中で、ハリス陣営もトランプ陣営も、イランへの妥協的姿勢を見せることは得策ではない。とくに、トランプが当選した場合には、ペゼシュキアンが公約を実現するのは容易ではなかろう。
昨年10月に始まったハマスとイスラエルの戦闘では、イランはハマス支持を明確にし、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派を支援している。イスラエルを支援するアメリカとの対立は容易には解消しない。
中東におけるイランの立場にも揺らぎ
昨年3月10日には、中国の仲介によって、イランはサウジアラビアと国交を正常化したが、スンニ派の盟主であるサウジアラビアは、シーア派の頭目であるイランへの警戒心を持ち続けている。
今年イランは、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、エチオピア、エジプトとともにBRICSに加盟したが、拡大BRICSは分裂の要因もまた増える。ハマスを支援するイランの加盟は、拡大BRICSの反米的色彩を濃くするが、親米的なサウジアラビア、エジプト、UAEやイスラエル寄りのモディ首相のインドも加わっており、一筋縄ではいかない。
エジプト、ヨルダン、イラクの外相は、「地域を全面戦争に向かわせようとしている」として、イスラエルのレバノン攻撃を非難している。
戦闘の停止か、地上戦への突入か、極めて厳しい状況になっている。日本政府も、邦人の避難のために、自衛隊の輸送機を近隣国に派遣することを検討している。事態の沈静化を望む。
【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。