通常なら中国は、内閣支持率が2割を切った日本の政権を、相手にしなくなる。なぜなら、平均で約半年で崩壊するからだ。それよりも、日本の新たな政権の誕生を待って、新政権に「花を持たせる」ことで、親中政権にしようとする。

 今回は特に、8月14日に岸田文雄首相が「退陣宣言」をしており、9月27日には事実上の新首相が決まる。そんな「政権末期の末期」に、中国が「日本カード」を切るのは、極めて異例なのだ。一度だけ、2010年5月末、「鳩山由紀夫政権の末期の末期」に温家宝首相が来日したことがあったが、その時は、温首相の帰国直後に鳩山首相が辞めるとは、中国側は夢にも思っていなかった。

 中国外交が「異例の措置」を取る時には、必ず深謀遠慮がある。私は今回、主に2つの目的があったと見ている。

総裁選に影響を与えようとの思惑

 一つは、11月5日のアメリカ大統領選挙の前に、アメリカの同盟国である日本を、少しでも中国側に引きつけたいという思惑だ。もしもドナルド・トランプ前大統領が勝利して、中国を悪辣に非難する「勝利宣言」でも述べたなら、日本はそれに追随することになる。そうなると、「日本産水産物の輸入再開カード」は効かなくなる。

 もう一つは、いままさに熾烈な選挙戦が展開されている自民党総裁選に、影響を与えようという思惑だ。中国は特に、8月15日に靖国神社を参拝した(中国から見た)「A級戦犯3人組」こと、高市早苗・小泉進次郎・小林鷹之の各候補に、絶対に勝利してほしくない。そのため、日本に「微笑外交」を見せることで、他の6候補に「追い風」を与えようとしたのだ。

今年8月15日の終戦記念日に靖国人者を参拝した高市早苗氏。小林鷹之氏、小泉進次郎氏も同日参拝した(写真:Rodrigo Reyes Marin/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
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 だが、そうした思惑も、深圳の児童刺殺事件によって、雲散霧消してしまった。「日本を中国に引きつける」どころか、「中国から一番離れようとしている」高市候補に、飛躍する材料を与えてしまった。

 もしも高市候補が勝利したなら、中国は何かと難癖をつけて、「日本産水産物の輸入再開」の合意を引っ込めるかもしれない。