(2)筆者コメント

ア.インテリジェンスの意味

 上記エ項「横断的課題」の(ウ)項「その他の論点」のインテリジェンス能力が情報能力を意味するのか諜報能力を意味するかが不明である。

 日本では、インテリジェンスを情報と訳すが、諸外国では諜報を意味する。すなわちスパイ活動である。

 日本には、公務員が海外においてスパイ活動をすることを認めた法律は制定されていない。

 すなわち、日本には真の意味のインテリジェンス機関は存在せず、かつ日本は海外においてインテリジェンス活動を実施することができない。

イ.サイバー空間の帰属問題

 攻撃元のサーバへの侵入・無害化するためには、その行為者を特定しなければならない。

 さて、サイバー空間の特徴の一つに「攻撃側の正体および企図を秘匿できる」ということがある。

 インターネット特有のグローバルな接続性と匿名性により、どこの国が仕掛けたかも分からない、さらには個人の犯罪なのか国家の敵対行為なのかの判別もしがたい。

 これをサイバー空間の帰属問題(attribution problem)という。

 すなわち、国際的に違法なサイバー行為が行われた場合、その行為者が特定され、かつ、その行為者と主権国家との関係が立証されなければ、当該国の国家責任を問うことができないということである。

 帰属問題には技術的問題と政治的問題がある。

 技術的問題は、発信元の IPアドレスの偽装とボットネットの使用などにより攻撃の発信源の特定が難しいことである。

 政治的問題は、サイバー攻撃の行為者を特定できても、行為者と責任ある主権国家の関係を立証するが難しいことである。

 行為者と責任ある主権国家の関係を立証するためにインテリジェンス(諜報)能力が必要となる。

 さて、日本は、サイバー空間の帰属問題を解決する能力を保有しているのであろうか。 筆者は、保有していないと見ている。

 なぜなら、日本は、これまで外国の国家主体のハッカーによるサイバー攻撃を受けても外国政府の国家責任を追及したことがないからである。