2.能動的サイバー防御、実施体制整備の経緯

●2022年12月16日、「国家安全保障戦略2022」策定

 2022年12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略2022」は、重大なサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」を導入する方針を掲げた。

2023年1月31日、内閣官房にサイバー安全保障体制整備準備室を設置

 2023年1月31日には内閣官房にサイバー安全保障体制整備準備室を設置した。

 松野博一官房長官(当時)は同日の会見で、同準備室の取り組みの一つとして能動的サイバー防御の実施に向けた体制整備を挙げた。

●2024年1月、能動的サイバー防御の実施のため法整備の遅れが確実に

 能動的サイバー防御を巡って、政府が目指す1月召集の通常国会への関連法案の提出ができなかった。

 憲法が保障する「通信の秘密」とどう整合性を取るかなど、法整備に向けた議論が遅れていることが影響したことによる。

2024年4月24日 国民民主党、能動的サイバー防御等に係る態勢の整備の推進に関する法律案を参議院に提出

 国民民主党は4月24日、国民民主党議員立法「サイバー安全保障を確保するための能動的サイバー防御等に係る態勢の整備の推進に関する法律案」を参議院に提出した。

 法案提出後、記者団の取材に応じた玉木雄一郎代表は次のように述べた。

「政府のサイバー安全保障に関する動きは遅すぎる。そのため、国民民主党として従来から訴えているアクティブサイバーデフィンスの考えを法案にして提出した」

「サイバー攻撃は発生前からしっかりと対応ができなければ意味がない。今回の法案には一元的な司令塔機能を設けるほか、憲法第21条の通信の秘密等の人権を守る規定も盛り込まれている」

「速やかな成立が実現されるよう政府・各党にも働きかけたい」

●2024年5月31日、「能動的サイバー防御」の法整備に関する有識者会議の設置を発表

 河野太郎デジタル相は5月31日の記者会見で、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の法整備に関する有識者会議(正式名称「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議」)の設置を発表した。

 佐々江賢一郎元駐米大使ら17人が参加し、6月上旬にも初会合を開く。早ければ秋に予定する臨時国会での関連法案提出を目指す。

2024年6月7日、「能動的サイバー防御」の法整備に関する有識者会議の初会合

 政府は6月7日、首相官邸で「能動的サイバー防御」の法整備に関する有識者会議の初会合を開いた。

 同会合で、岸田首相は「サイバー対応能力の向上は現在の安全保障環境に鑑みてますます急を要する課題だ」と訴えた。

 河野デジタル相は「欧米の主要国と比べて遜色のない体制を実現していかなければならない」と強調した。

2024年8月7日、「能動的サイバー防御」の法整備に関する有識者会議の論点整理が公表された。

 論点整理の中で、ネットワークの実態を監視しサイバー攻撃を未然に防ぐ観点から、普段から民間などの通信情報の収集・分析や利用を行う必要性を明記している。

 そして、通信の秘密は憲法上の権利だが、法律により公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受けることも認められるとした考えを示した。

 一方、メールの中身を逐一見るなど、個人間のやり取りの内容まで集めるのは適当ではないと指摘し、行政側の対応を監視する独立機関の設置を求めている。

 このほか電気や鉄道などの重要なインフラの関連事業者が攻撃を受けた場合に、国への報告の義務化も盛り込まれた。

 さらに、必要に応じて攻撃元のサーバに侵入し、無害化などの措置を講じる際は自衛隊や警察などが保有する能力を活用するとともに、高度化していく重要性も示している。論点整理の詳細は後述する。

 有識者会議は、この論点整理をもとに、さらに議論を深めることにしている。

2024年8月23日、防衛省、サイバー防衛を担う自衛官確保を本格化との報道

 防衛省はサイバー防衛を担う自衛官を確保・育成する取り組みを本格化させる。

 専門部隊の指揮官の新たな採用枠や、作戦運用の中核を担う幹部を育てる任用制度を創設し、2025年度に募集を開始。

 入隊後のサイバー教育も充実させる。関連経費を2025年度予算概算要求に盛り込む。

 サイバー攻撃への脅威の高まりを背景に、2022年末に策定した防衛力整備計画では2027年度末までに専門部隊を約4千人に増やすと明記した。

 2023年度末時点の人員は約2200人なので、4年でほぼ倍増させる必要がある。

 サイバー専門部隊の隊員については、一般隊員を対象とした体力基準の緩和を検討する。(出典:共同通信2024年8月23日)

2024年8月29日、自民党、「能動的サイバー防御」めぐる政府への提言まとまる。

 自民党は8月29日、「能動的サイバー防御」の導入に向け、早期の法整備などを求める提言案を取りまとめた。

2024年9月10日、自民党、「能動的サイバー防御」に関する提言を首相へ提出

 岸田首相は9月10日、自民党経済安全保障推進本部の甘利本部長らと官邸で会い、「能動的サイバー防御」の法制化に向けた提言を受け取った。