(英エコノミスト誌 2024年9月21日号)

ニューヨークのAIイベントでスピーチするサム・アルトマン氏(9月23日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

生成AI技術が米国の「創造的破壊の王者」に思考変革を迫っている。

 近いうちにシリコンバレーの丘を珍獣がのしのしと歩き始めるかもしれない。

 企業価値評価が10億ドルを超えるユニコーン(一角獣)でもなければ、その10倍の100億ドルを超えるデカコーン(十角獣)でもない。

 100倍の1000億ドル超の値がついたスタートアップ企業ヘクトコーン(百角獣)のお出ましだ。

新たな資金調達でオープンAIが20兆円企業に

 対話型人工知能(AI)「Chat(チャット)GPT」の開発元である米オープンAIは、共同創業者サム・アルトマン氏の事業拡大の夢を実現させるべく投資家から65億ドルの資金を調達する計画で、すでに交渉に入っていると言われる。

 調達に成功すれば、オープンAIの企業価値評価は約1500億ドルとなり、米国の新興企業としては過去2番目の1000億ドル超えになる。

 ちなみに1社目はイーロン・マスク氏率いる宇宙開発企業スペースXだ。

(マスク氏は2015年にアルトマン氏とオープンAIを共同で立ち上げ、今ではアルトマン氏の宿敵になった人物だ)

 このように書くと、オープンAIは一大センセーションを巻き起こす典型的なテック企業のように思える。

 世界をいずれ変えると期待する新しいやり方を開発するために、豪胆な投資家に頼る魅力的なスタートアップ企業だということだ。

 グーグルやフェイスブック、ウーバーを思い浮かべてみるといい。

だが、オープンAIの重要性はさらにその上を行く。同社の基盤である生成AI技術はシリコンバレー自体のゲームのルール自体を書き換えつつあるからだ。

 この新技術が業界に突き付ける大きな課題は3つある。

 1つ目は、オープンAIのような企業が生成AIモデルを訓練・稼働させるのに必要な費用はケタ外れに大きく、多くの有力ベンチャーキャピタル(VC)が手を出せないこと。

 2つ目は、このテクノロジーのスケール(比例)の仕方が従来技術とは異なること。

 そして3つ目は、利益を稼ぐためになじみの薄いアプローチに頼らねばならないかもしれないことだ。

 要するに、生成AIは米国におけるディスラプション(創造的破壊)の王者のお膝元にディスラプションをもたらしている。

 ここはシャーデンフロイデ(他人の不幸を喜ぶ気持ち)を楽しむといい。