中国で多発する「社会報復性テロ事件」

 日中の世論がともに胡友平さんの英雄的行動に強く関心を寄せたことで、蘇州の事件については「日本人が狙われたのか」というところに報道の焦点があまり当てられなかった。中国側は日本人を狙った犯行ではない、と説明し、日本側メディアも世論もそのように受け止めた。

 だが、今から思えば、中国において日本人は暴力事件のターゲットになりやすい、という意識をもっと喚起しておけば、再発防止措置がもっと徹底されたかもしれない。犯行の真の動機がどうであれ、今の中国で日本人が攻撃されやすい社会のムードがある、という前提をもっていれば9月18日に日本人学校を臨時休校することぐらいしたかもしれない。

 中国ではもともと「社会報復性テロ事件」と呼ばれる、社会に不満や恨みをもった人間がその恨みの矛先を無差別に周囲、特に子供や女性など弱者に向ける犯罪が多い。最近は、経済の長期的な低迷や統制強化による息苦しさなどで社会の雰囲気は極めて悪く、こうした事件が急増している。

 パターンとして多いのは車を暴走させて無差別に歩行者をはねる事件だ。9月10日、湖北省武漢で、車が通学中の子供たちの列に突っ込み、大勢の子供たちが血まみれになって倒れている様子の動画や写真がネットで拡散された。詳細は報じられていない。

男に襲われ命を落とした男子児童が通っていた日本人学校前に手向けられた花束やメッセージ=9月19日(写真:共同通信社)

 9月3日、山東省泰安市の仏山中学で、スクールバスが暴走し、バスを待つ子供たちの列に突っ込み11人死亡13人負傷という大事件が起きた。スクールバスの暴走の原因については報じられていない。

 7月に湖南省長沙市で車が人込みに突っ込み8人死亡、5人負傷の事件が起きた。これは住居を強制退去させられた容疑者が自分の不幸を社会に広く知らしめようとして起こした社会報復性テロ事件とされた。

 刃物でいきなり人を襲う事件も多い。5月23日に湖北省孝昌市郊外の農村で男がナイフで自分の80歳代の母親を含めて村人を次々と襲い8人死亡、1人負傷という事件があった。

 5月21日四川省自貢市の路線バス上で52歳の男が刃物で乗客を次々襲い、3人が負傷。20日には江西省鷹潭貴渓の小学校で刃物をもった女が次々子供たちを切りつけ、少なくとも2人死亡10人負傷という事件があった。

 立て続けに刃物を使った無差別襲撃事件が起きたので、当時は、これも社会報復性テロだとネットで噂になった。ただ当局は事件の詳細については報道統制しており、事件の詳細な背景、犯行の動機についてははっきりしていない。

 こういう事件について当局はだいたい、原因を犯人の精神疾患などとして、動機などは深くは追求していない。だが中国世論の受け止め方は、世の中に不満をもち、不幸に苦しむ人間が、周囲をその不幸に巻き込み、自分の不幸を世に知らしめるために起こす事件だとみている。そして社会不満の原因は、政治の悪さであり、その責任の矛先が共産党、あるいは習近平政権という風になりかねないので、報道が統制されるのだろう、と見ている。