企業の奨学金返還支援制度は「人材採用の費用対効果が極めて高い」

 制度の拡大期はコロナ後の人手不足が深刻化した時期と重なる。企業側には、制度をアピールすることで優秀な人材を確保し、支援の継続により少しでも長く働いてもらいたいという思惑があるようだ。

 実施企業の中には、新卒入社の半数が制度を利用しているところもあるという。制度に詳しい社会保険労務士は、奨学金返還支援制度を「人材採用の費用対効果が極めて高い」と評価する。

「今や大学生の半数が奨学金を利用していて、うち8割は将来返済が必要な貸与型。奨学金返還支援制度への潜在需要は強い。日本学生支援機構の奨学金の平均的な返済額は月額1万6000円ほど。求人サイトや人材会社などを利用するより低コストで求職者にリーチできる」

 企業から日本学生支援機構への返還金は給与とは別の扱いとなり、社員にはその分の所得税が課税されない。一方、企業にとって返還金は給与として損金算入され、一定の要件を満たせば「賃上げ税制」の対象となり法人税の税額控除が受けられる。

 先の女性の勤務先は返還支援制度が導入されておらず、導入が検討されている気配もないという。女性は「今の部門でキャリアを積んだことで転職も視野に入ってきた。転職先は絶対に制度がある企業を選ぶ」と話してくれた。「この先10年以上も払い続けることを思うとプレッシャーは半端ない。会社が少しでも肩代わりしてくれたら本当に助かる」

 給付型奨学金の選択肢が広がり奨学金制度の在り方が変わっている中で、日本初の“奨学金ファンド”の立ち上げ準備が進んでいる。