教育費が増加が続く日本では奨学金制度の充実が課題になっている(写真:masamasa3/Shutterstock.com)

 先日、東京大学が20年ぶりに授業料を値上げする方針だと発表した。授業料は年間53万5800円から64万2960円へ、約2割引き上げられる予定だ。日本の大学は少子化による学生減で経営状況が悪化しており、志願者数がピークだった1990年代初めに比べると授業料は約1.5倍に上昇した。これを受け奨学金の利用者は大学昼間部の学生で2人に1人に上り、滞納や返済難が増えて社会問題化している。

 そうした中で、企業が社員の奨学金返済の一部を肩代わりする制度の導入が相次いでいる。社会貢献の意味合いもあるが、背景には採用難の時代に安定的に人材を確保したい企業の思惑も透けて見える。

(森田 聡子:フリーライター・編集者)

NISAに「全力投入」できるのは懐に余裕のある自宅通勤者

「もっと投資額を増やしたいのに収入が足りない。大学時代に借りた奨学金の返済も重荷になっている」

 NISA(少額投資非課税制度)の改正をきっかけに投資を始めた20~30代の個人投資家を取材した際、こんな声を複数聞いた。

 その1人が、都内の上場企業に勤務する28歳のシングル女性だ。

 中部地方出身の女性は有名私立大学の国際文化学部を卒業している。自営業の両親はいい顔をしなかったが、自分の意思で日本学生支援機構の第1種奨学金(無利子貸与型)を利用した。

 大学卒業時で総返済額は300万円に上り、毎月およそ1万5000円を返済し続けている。完済は40歳の予定だ。

日本学生支援機構から貸与を受けて進学する学生数は高止まりしている。同機構の制度だけで、大学・短大では3.2人に1人が利用している(出所:独立行政法人日本学生支援機構)

 年齢の近い同僚にも新NISAで投資デビューをした人が多く、昼休みや飲み会の席でも株式市場の動向や金融商品などの話題で盛り上がる。

 NISAの活用法を指南するSNSなどで散見されるのが、「より多くの運用益を得るために、なるべく早く非課税枠を使い切った方がいい」というアドバイスだ。運用期間が長期にわたるほど、再投資による“複利効果”の恩恵を享受できるからだという。

 これを受け、NISAの積立投資枠の年間限度額120万円を目指し毎月10万円の上限いっぱいまで積み立てをする人が増えている。SNSで言うところの「全力投入」だ。女性の同僚にも全力投入組が何人かいるそうだが、多くは懐に余裕のある都内出身の自宅通勤者だ。